パナソニック若狭工場事件・控訴理由書①

平成23年(ネ)第259号 地位確認等請求控訴事件
控訴人   河本猛
被控訴人  パナソニックエレクトロニックデバイスジャパン㈱ 外

控 訴 理 由 書
                        
2011年 12月 16日
名古屋高等裁判所金沢支部民事部 御中

控訴人訴訟代理人
弁護士 海道宏実
同    吉川健司
同    村田浩治
同    河村学

(目 次)
第1 はじめにー原判決の誤りのポイント ・・・・・・・・・・・・・・ 3頁

第2 控訴人の就労等の実態に関する事実認定の誤り 
1 被控訴人PEDJによる控訴人採用行為への関与 ・・・・・・・・・・ 7頁
 2 被控訴人PEDJによる指揮命令と労務管理 ・・・・・・・・・・・・12頁
3 被控訴人PEDJによる賃金決定への関与 ・・・・・・・・・・・・・17頁
4 原判決が黙示の労働契約の成否の判断に影響する重要な事実について判断を回避したこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20頁

第3 控訴人と被控訴人PEDJとの黙示の労働契約の成立
 1 原判決の誤り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25頁
2 黙示の労働契約論について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・26頁
3 本件における黙示の労働契約の成立について ・・・・・・・・・・28頁
4 被控訴人間の労働者供給契約は無効である ・・・・・・・・・・・30頁
5 被控訴人らは,違法な契約も有効性,黙示の労働契約の不成立を主張できないー判断回避 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33頁

第4 控訴人と被控訴人PEDJとの労働者派遣法40条の4による労働契約の成  立
1 原判決の誤り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34頁
 2 労働者派遣法解釈の誤り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34頁
 3 控訴人主張の不正確な理解 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・34頁
 4 本件是正指導後の労働契約の成立 ・・・・・・・・・・・・・・・35頁

第5 控訴人と被控訴人PEDJとの労働契約の成立(予備的主張。控訴審での新  主張)
1 控訴人と被控訴人PEDJとの明示の労働契約の成立 ・・・・・・35頁
 2 事実の経過 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35頁
3 労働契約成立の要件ー必要な合意の具体性 ・・・・・・・・・・・37頁
4 1月22日の控訴人の承諾の意思表示による労働契約の成立 ・・・37頁

第6 被控訴人らの不法行為責任の判断の誤り
1 労働契約の成立を前提とした不法行為責任の否定 ・・・・・・・・38頁
2 労働契約の成立を前提にしない不法行為責任に関する原判決の判断 38頁
3 不法行為責任に関する原判決の判断の誤り ・・・・・・・・・・・40頁
4 行政取締法規違反は不法行為の違法性を根拠づける ・・・・・・・41頁
5 労働者派遣法の目的と違反行為の違法性 ・・・・・・・・・・・・43頁
6 労働者派遣法40条の4違反における事業主の義務の解釈の誤り ・46頁
7 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50頁
8 直接雇用の承諾を無視した被控訴人PEDJの不法行為責任 ・・・51頁

第7 おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51頁



第1 はじめに
1 原判決の骨子
   原判決は,①控訴人と被控訴人PEDJとの間の黙示の労働契約の成立②控訴人と被控訴人PEDJとの間の労働者派遣法40条の4による労働契約の成立③被控訴人らの控訴人に対する不法行為の成立,をいずれも否定した。 
 2 原判決の誤りのポイント
(1)控訴人の就労等の実態
原判決には,①採用行為への関与②指揮命令と労務管理③賃金決定への関与のいずれの点においても多数の事実誤認があり,証拠の評価を誤っている。とりわけ控訴人と被控訴人ケイテムとの間の最初の期間雇用契約書の就労開始日につき,本来平成17年2月21日と認定すべきところを同年1月21日と判示している(原判決5,28頁)点は,書証や当事者の主張を真摯に検討していれば間違いようのない事実誤認をしているのであり,このような杜撰な事実認定は許されず,この一事をもってしても他の事実誤認が十分推認されるところである。
 また,①について供述や証言の信用性評価を誤っているし,③についても具体的な証言や書証に基づいた控訴人の主張を無視している点は特に留意されるべきである。
 さらに,控訴人が黙示の労働契約の成否を判断するにあたり重要な事実として,①2006(平成18)年11月1日の業務請負から派遣への切替における控訴人の労働実態(被控訴人PEDJによる指揮命令・労務管理等)に何の変化もなかったこと,②2008(平成20)年2月ころに開始された派遣労働者の請負化計画において,被控訴人PEDJが控訴人ら社外工に対して,雇用主でなければできない教育訓練,人員配置の決定等をしたこと,を主張していたにもかかわらず,原判決が上記主張に対して何の判断も示さなかった点は結論を導く上で重要な判断遺漏と言わざるを得ず,ひいてはこれも事実誤認につながっている。
(2)控訴人と被控訴人PEDJとの黙示の労働契約の成立
原判決は,最高裁松下PDP判決が事例判断に過ぎないことを看過しているとともに,判断手法として参考とすべき同判決の正確な理解を欠いたまま誤った判断をしており,黙示の労働契約の成立を否定する結論に至る過程があまりに不明確で理由不備もある。控訴人の主張する正確な事実認定の下では,同判決の判断手法を参考にしても黙示の労働契約は十分認められるはずである。
   また,①被控訴人PEDJが違法を熟知しながらあえて脱法目的で偽装請負の形態をとってきたことが「特段の事情」にあたると主張していたにもかかわらず,原判決が一切判断していない点②自ら悪質な違法行為を意図的に行ってきた被控訴人らが請負契約ないし労働者派遣契約の有効性及び控訴人と被控訴人PEDJ間の黙示の労働契約の不成立を主張することは,信義則ないし禁反言の原則(民法第1条2項)から許されないと主張していたにもかかわらず,原判決が一切判断していない点,も結論を導く上で重要な判断遺漏と言わざるを得ない。
(3)控訴人と被控訴人PEDJとの労働者派遣法40条の4による労働契約の成立
原判決は,労働者派遣法の制定・改正の趣旨や40条の4の規定文言等を十分検討することなく,条文を形式的一面的にとらえている点で法令解釈に誤りが認められる。
 また,控訴人の主張を正確に理解した上での判断とはなっておらず,この点でも法令解釈の誤りや理由不備が認められる。
(4)控訴人と被控訴人PEDJとの労働契約の成立(予備的主張。控訴審での新主張)
原審においても事実主張はしてきたものであるが,控訴審において新たに予備的主張として,控訴人と被控訴人PEDJとの間で2009(平成21)年1月22日における労働契約の成立を追加するものである。
   原判決は,本件是正指導以降に被控訴人PEDJが控訴人に対して直接雇用の申込みをしたと判示しており(原判決31頁),これに対して控訴人が異議を留めて承諾したことを主張する。
(5)被控訴人らの不法行為責任の判断の誤り
原判決は,取締法規による間接的規制であることのみを理由に不法行為上の違法性を否定しており,法令解釈の誤りが認められる。
   また,原判決は,労働者派遣法40条の4による直接雇用の申込義務について派遣先使用者が労働契約の申込をする自由や申込内容をどのように決定するかという自由を否定していないと解釈しており,この点も法令解釈の誤りが認められる。
   さらに,原判決は,控訴人が被控訴人らから排除されるに至る事実認定に誤りがあるほか,控訴人が被控訴人PEDJによる直接雇用の申込みに対して異議を留めつつ承諾し,今後労働組合を通じた条件交渉を求めたにもかかわらずこれを拒否した点について何ら判断しなかった点でも判断遺漏,法令解釈の誤り,理由不備が認められる。
 3 控訴審で問われるべき点
   控訴審では,2で述べた原審判決の誤りについて,原審及び控訴理由書に基づく控訴人の主張と原審で取り調べられた証拠及び追って提出予定の証拠を慎重に検討された上で判断がなされるべきである。
   原判決は,被控訴人らが労働者派遣法に違反する状態にあることを知りながら(原判決32頁),すなわち被控訴人らの違法性の認識を認定していながら,控訴人と被控訴人PEDJとの間の労働契約の成立を否定したばかりか,被控訴人らの不法行為責任まで否定したのである。これでは,労働者派遣法に違反した状態で働かせられた派遣労働者が全く救済されないまま放置される一方で,違法行為を認識していた(本件では脱法目的で意図的に行っていた)派遣先企業及び派遣元企業をすべて免罪させることになってしまう。いかに使用者が労働者派遣法違反を犯しても何らの責任を負うことなく労働者だけがまさに「物」扱いとして切り捨てられることを許してよいのか。このような不正義・不公平な結果を追認してよいのか。このような結果を許しては,繰り返される労働者派遣法違反は一向に是正されないどころか,やり得を許し,労働者派遣法を遵守する法遵守の意識を希薄化させ,法秩序の混乱を誘発するだけではないか。リーマンショック後のいわゆる派遣切りにより切実な社会問題として浮き彫りになった派遣労働者の劣悪かつ不安定な地位・権利状態に対し,一向に改善がすすまない社会情勢の下で,司法に期待される役割は極めて重大であり,控訴審ではまさにこの点が問われているといってよい。
第2 控訴人の就労等の実態に関する事実認定の誤り
 1 被控訴人PEDJによる控訴人採用行為への関与
(1)原判決の判示概要
   原判決は,被控訴人ケイテムの福井営業所従業員KA氏(以下「KA氏」という)の言動等についての控訴人の供述は,控訴人の主張の経緯に照らして信用できないこと,被控訴人PEDJが控訴人採用への関与を否定しており,関与を必要とする客観的な状況が認められないこと,被控訴人ケイテムが被控訴人PEDJから独立した会社であること,被控訴人ケイテムの企業規模と業務内容からすれば,KA氏の言動が認められるとしても,その言動から被控訴人PEDJが控訴人の採用に関与していたと認めることはできない,とした(原判決24,25頁)。
(2)原判決の誤り
 ア 控訴人が,被控訴人PEDJの採用行為への関与を訴状において主張せず,2010(平成22)年3月1日付争点整理に対する意見において主張を補充する旨述べるという経緯になった理由は以下のとおりであり,何ら不自然なところはなく,それゆえ控訴人の供述は十分に信用できる。
   そもそも,本件訴訟が提起された2009(平成21)年3月時点において,本件訴訟と同様の偽装請負がなされた場合における黙示の労働契約の成立が争われた事件についての代表的な判決は,いわゆる松下PDP事件の2008(平成20)年4月25日に言い渡された大阪高裁判決であった。そして,同大阪高裁判決において,黙示の労働契約の成立を認めるための要件として,派遣先の採用行為への関与が必要とはされていなかった。しかし,その後の2009(平成21)年12月18日に松下PDP事件についての最高裁判決がなされ,同最高裁判決において,派遣先の採用行為への関与について,一定の判断が示された。
   以上の経緯から,控訴人は,前記最高裁判決を踏まえた主張が必要と考えて,被控訴人PEDJの採用行為への関与を主張することとしたのである。
   よって,上記の経緯に何ら不自然なところはない。にもかかわらず,控訴人の主張の経緯から控訴人の供述の信用性を全て否定した原判決は誤っている。
 イ 控訴人は,第10回口頭弁論において,2005(平成17)年2月上旬ころの被控訴人ケイテムのKA氏による面接での言動,その後2月21日の初出勤時における,KA氏,被控訴人PEDJ正社員PA氏とのやり取り等について,以下のとおり供述した。
(ア)控訴人は,2005(平成17)年1月頃,被控訴人ケイテムに電話し,「パナソニックの工場で働きたいんだけども,仕事がありますか」と尋ねた。被控訴人ケイテムの電話の応対者は,控訴人が敦賀に住んでいることを確認した上で「敦賀のパナソニックの工場で仕事があれば働けるよ」と言った(河本1頁,甲41・1頁)。
   その後,被控訴人ケイテム正社員のKA氏から控訴人に電話があり,敦賀で面接をする旨伝えられ,同年2月上旬,実際に敦賀において面接が行われた(河本1頁)。
(イ)面接は,ファミリーレストランで30分程度行われた。その内容は,KA氏が,「長期で働けるのか,短期で働くのか」と尋ねたので,控訴人が長期で働くことを希望すると,「それならパナソニックの工場で働いてもらうことになる」「工場がつぶれるまでは働けるから安心していいよ」などと述べただけである(河本2頁)。控訴人が渡した履歴書に対する質問等もなく,簡単な適性検査以外には控訴人の能力に関する試験等もなかった。具体的な労働条件の提示についても,給料が日給で8000円くらいになるだろうという話が出ただけであった(甲41・2頁)。業務内容についても,KA氏は,パナソニックの工場における作業を覚えるための研修等については,パナソニックの社員の人が教えてくれる,と述べただけであった(河本2頁)。
   以上のとおり,KA氏との面談は,人物評価のための面接というより,顔合わせと控訴人の希望確認というものに過ぎなかった。
(ウ)その後,KA氏から2月21日からパナソニック若狭で働くことができるとの連絡があり,当日8時に門前でKA氏と待ち合わせをした(甲41・2頁)。そして,ロッカールームで,KA氏が控訴人に対し,期間雇用契約書(おそらく乙B1の1)を示したので,控訴人はこれに署名した(甲41・3頁)。その際,KA氏は,「とりあえず3か月にしておくけども,長く働けるから大丈夫だよ」と,雇用期間の定めが形式的なものでしかないことを告げた(河本4頁)。
   そして,KA氏は契約内容や業務内容を確認することもなく,控訴人を被控訴人PEDJ正社員のPA氏に紹介して帰って行った。
(エ)その後,控訴人はPA氏に面会し,PA氏からハイサイクル成形班に入ってもらうと言われた。また,PA氏は,控訴人が担当する業務の内容を説明し,丸1日かけて作業・機器の操作方法等について説明を行った(甲41・3頁)。また,控訴人とPA氏が面談している際,控訴人がPA氏に夜勤もできる旨を伝えたところ,PA氏は,「A勤でしっかり仕事を覚えてもらって,その後だったら夜勤,今ちょうど人が少なくて募集しとるとこやから,ちょうどよかったんや」などと述べ(河本5,22頁),具体的な控訴人の配置や就労時間帯を決定した。そして,実際,同年5月後半か6月頃,控訴人はPA氏から夜勤に入るよう命じられ,そのまま翌日から夜勤となった(河本22頁)。
 ウ 以上のとおり,控訴人は,極めて詳細かつ具体的に供述しており,その供述内容に不自然なところ,不合理なところはなく,経験した者でない限り供述することが不可能なものであった。また,控訴人の供述態度も真摯なものであった。
   ところが,原判決は,控訴人の供述内容には一切言及しないまま,その信用性がないと判断した。本来,供述の信用性を判断するにあたっては,供述内容以外の事情だけでなく,供述内容の合理性等を踏まえてその信用性を判断すべきであるから,この点だけをとっても,原判決の誤りは明らかである。
   そして,控訴人の供述の経緯に何ら不自然なところがないこと,控訴人の供述内容が信用できることを踏まえれば,控訴人の採用に関し,被控訴人ケイテムが,最初の顔合わせをして就労希望を聞き取り,控訴人を被控訴人PEDJに紹介したに過ぎないことがわかる。被控訴人ケイテムは,最初から被控訴人PEDJのために労働者を捜し出し,これを被控訴人PEDJに受け渡す役割しか果たしていないのである。
   一方,被控訴人PEDJは,工場で長期に就労できる労働者を捜すよう被控訴人ケイテムに求めていたし,その具体的な業務内容や人員配置,就労時間の決定などは自らが行うものとしていた。そして,実際に控訴人に対しても,業務内容の説明と研修を丸1日かけて行い,その上で就労が開始されているのである。就労開始後しばらくして夜勤に配置転換になったのも被控訴人PEDJの直接の人事管理によるものである。
   また,控訴人と被控訴人ケイテムとの間の契約書は形式的に作成されたものに過ぎない。そのことは,被控訴人ケイテム正社員のKA氏が契約期間について適当に決めていたこと,被控訴人ケイテムの期間雇用という形式にもかかわらず,実際には被控訴人ケイテムによる指揮命令が全く予定されていなかったことなどから明らかである。
   以上の経過,特に,被控訴人ケイテムから伝えられた情報,就労当日の被控訴人ケイテムのKA氏の説明や対応,契約書作成の杜撰さ,被控訴人PEDJのPA氏の説明等を併せて考えれば,控訴人の採用は,被控訴人PEDJが実質的に決定したというべきであり,少なくとも被控訴人PEDJが控訴人の採用に深く関与していると認められる。
   なお,原判決は,甲2と乙B1の1を引用した上で,控訴人が「平成17年1月21日から平成18年5月20日までとする労働契約を締結し,さらに平成17年2月21日にも,同日から平成17年5月20日までの期間3か月の期間雇用契約書を作成した。」(原判決5,28頁)と判示しているが,甲2をよく見ていないために誤った判示をしたものである。甲2の契約書の期間は,「2006年1月21日~2006年5月20日」であって,「2005年1月21日」が開始日ではない。常識的に考えても,被控訴人ケイテムも被控訴人PEDJも2005(平成17)年2月21日が控訴人の就労開始日であることは争っていないのであって,「2005年1月21日」からの契約書を作成するはずがない。この一事をとっても,原審が,果たして当事者の主張を真剣に受け止め,書証を真摯に検討したのか疑わしい判示と言わざるを得ない。
 エ 被控訴人PEDJの採用行為への関与に関して,控訴人と被控訴人ケイテムは,KA氏を証人として申請し,原審裁判所によって,控訴人と被控訴人ケイテムの両者にとって尋問が必要な証人として採用された。にもかかわらず,KA氏は,証人尋問の当日に出廷しなかった。
   さらに,被控訴人PEDJも被控訴人ケイテムも,控訴人の採用行為に被控訴人PEDJが関与していた旨の控訴人の主張・立証に対し,否認すると述べるだけで,何ら積極的な立証を行っていない。なお,PB氏証人とPC氏証人が,第10回口頭弁論において,被控訴人PEDJが採用行為に関与していない旨証言しているが,そもそも両名は採用行為に関係する部署におらず,被控訴人PEDJの採用行為への関与を知る立場にないから,その証言は経験した事実を述べたものとは考えられず,到底信用できるものではない。むしろ,自ら経験していないにもかかわらず,被控訴人PEDJに有利な証言をしたという点で,両名の証言が信用できないことを明らかにしているといえる。
   以上のとおり,被控訴人PEDJも被控訴人ケイテムも,控訴人の採用行為が被控訴人ケイテム独自のものであり,被控訴人PEDJが関与していないことを証明する証拠を一つも提出していない。かかる証拠を提出することは容易と考えられるにもかかわらず提出していないということは,すなわち提出できないということ,換言すれば,控訴人の採用行為に被控訴人PEDJが関与していたということを示している。
 オ 原判決は,被控訴人PEDJが控訴人の採用行為への関与を必要とする客観的状況がない旨判示するが,これは派遣労働に特有の事情を全く理解しない判示であり誤っている。なぜなら,派遣労働において,派遣労働者の能力,個性等に関心があるのは派遣先であって,派遣元ではないからである。すなわち,派遣先は,派遣元に対価を支払って派遣労働者を受け入れており,対価を無駄にしないために,派遣労働者を使用して業績を上げる必要がある。それゆえ,派遣労働者が業務に関して適切な能力を有しているか,派遣先の要求(例えば,長期間の労働が可能かどうか。)に応えることができるか,等に関心を持つ。一方,派遣元は,派遣先の要求する人数の派遣労働者を派遣すれば対価を得られるのであるから,採用にあたっては,必要な人数を確保することが最優先となり,派遣労働者の能力はそれほど重視されないからである。
   それゆえ,通常は,派遣先である被控訴人PEDJが,控訴人の採用行為への関与を必要とする客観的状況があるのであって,特段の事情がない限り,被控訴人PEDJが控訴人の採用行為に関与していたと認定すべきなのである。
   よって,上記の点において,原判決は誤っている。
 カ 原判決は,被控訴人ケイテムが被控訴人PEDJから独立した会社であること,その企業規模・業務内容からも,被控訴人PEDJが控訴人の採用行為に関与していない旨判示するが,これも,同じく誤っている。なぜなら,繰り返しになるが,派遣労働において,派遣労働者の能力,個性等に関心があるのは派遣先であり,派遣元ではない。そして,派遣労働におけるかかる事情は,派遣元の企業規模,業務内容とは全く関係なく,派遣元が派遣先から独立していても変わらないからである。
 2 被控訴人PEDJによる指揮命令と労務管理
(1)原判決の判示概要
   原判決は「第3 2(1)イ被告PEDJによる指揮命令・労務管理」(25~27頁)において,(ア)~(ク)として,控訴人が被控訴人PEDJの労働者で成形班のリーダーPA氏から成形機の運転方法等の指導を受けていたこと,控訴人ら被控訴人ケイテムの労働者に指揮命令する被控訴人ケイテムの担当者がおらず,問題が生じた場合に被控訴人ケイテムの労働者は被控訴人PEDJの労働者に報告し,指示を受けていたこと,被控訴人PEDJが被控訴人日本ケイテムの労働者の出退勤状況を確認していたこと,控訴人が被控訴人PEDJの労働者と一緒に就業前に掃除をしており,被控訴人PEDJの朝会の後の成形工程のミーティングにおいて被控訴人PEDJの労働者から作業内容の確認等の連絡を受けていたこと,控訴人が被控訴人PEDJの労働者からの求めに応じて休日出勤,早出出勤をしていたこと,被控訴人ケイテムの労働者の欠勤・休暇取得が被控訴人PEDJに必要な情報であったこと,被控訴人ケイテムが被控訴人PEDJの若狭工場にタイムカードを設置し,被控訴人ケイテムの現場責任者が被控訴人ケイテムの労働者の出退勤状況を確認・管理していたこと,被控訴人ケイテムが自らの労働者に対し,入退者の確認,勤務管理,給与計算,社会保険資格の得喪,福利厚生運営等の基本的な雇用者としての管理を行っていたこと,等を認定した。
(2)原判決の誤り
 ア そもそも,控訴人は,原告準備書面(7)14頁以下において,被控訴人PEDJによる控訴人ら社外工に対する指揮命令を裏付けるものとして,被控訴人PEDJ正社員による業務指示,社外工の被控訴人PEDJの組織への組み込み,昼勤と夜勤の引継における被控訴人PEDJ正社員の業務指示,朝会への被控訴人PEDJ正社員と社外工の参加と業務指示及び引継,被控訴人PEDJ正社員による休日出勤の指示,被控訴人PEDJ正社員の指示による控訴人の昼勤から夜勤へのシフト変更等を指摘し,また,被控訴人PEDJによる社外工の労務管理を裏付けるものとして,5S業務への参加指示と被控訴人PEDJ正社員による成績評価,被控訴人PEDJ正社員による社外工の作業認定確認,被控訴人PEDJ正社員による社外工を含めた勤務時間の管理・出勤計画表の作成,被控訴人PEDJ正社員の許可による社外工の年休取得等を指摘した。そして,上記の各事実は,控訴人の供述に加えて,書証,被控訴人PEDJの従業員であるPC氏証人,PB氏証人の証言によっても裏付けられていることも指摘した。
   ところが,控訴人による上記指摘に対し,原判決は,業務指示,5S業務,朝会,休日出勤,年休取得について,一部控訴人の主張を認めた(原判決25~27頁)ものの,それ以外については,何ら判断を示さなかった。また,原判決は,控訴人が指摘した事項を認定できるとした点について,その認定が黙示の労働契約の成立との関係でどのような意味をもつのか,何の判断も示していない。そのため,何のために認定したのかわからない判示となっている。
   上記のような判示は,判決の理由を書くという裁判所の基本的な役割を放棄したに等しく,是正されるべきである。
 イ 原判決は,被控訴人PEDJが被控訴人ケイテムの労働者の出退勤状況を確認していたに過ぎず(原判決25,26頁),被控訴人ケイテムの現場責任者が被控訴人ケイテムの労働者の出退勤状況を確認・管理していた(原判決26頁)と判示した。
   しかし,原告準備書面(7)20頁においても指摘したことであるが,控訴人ら社外工の勤務時間については,被控訴人PEDJ正社員が,社外工に対して,被控訴人PEDJの用意した勤務管理表(甲31の書式)に勤務時間を記載するよう指示を出し,その記載を被控訴人PEDJ正社員が確認して,確認印を押していた。例えば,控訴人の勤務管理表については,PB氏証人が確認印を押していた(甲31の確認欄参照)。そして,毎月20日に被控訴人PEDJ正社員が勤務管理表を回収するという方法で,社外工の勤務時間を管理していた(河本16,17頁)のであり,これらの事実はPB氏証人自身も認めている(PB氏15,23,24頁)。さらに,是正指導書(乙A14)においても,「(株)日本ケイテムの労働者に対して…(中略)…貴社が労働時間等を管理している」というように,違反事項として指摘されていた。
   また,出勤計画は,PC氏証人が,社外工・正社員の区別なく,それぞれの休日の希望を聴き取った上,全員分の出勤計画表を作成していた。社外工・正社員の休日の希望が重なった場合には,PC氏証人が調整していた(河本17~19頁)。この事実は,PC氏自身も認めた(PC氏32頁)。さらに,是正指導書(乙A14)においても,「(株)日本ケイテムの労働者の出勤計画の作成…(中略)…を貴社の監督者が行っており」というように,違反事項として指摘されていた。
   以上の事実に鑑みるなら,被控訴人ケイテムの現場責任者が被控訴人ケイテムの労働者の出退勤状況を管理していたとは到底認められず,被控訴人PEDJ正社員が出勤計画表を作成しており,被控訴人PEDJ正社員が被控訴人ケイテムを含む社外工の出退勤状況,勤務時間を管理していたことは明らかである。
   ところが,原判決は,控訴人らが指摘した上記の事実について何の判断も示しておらず,控訴人の供述,PB氏証人・PC氏証人の証言,福井労働局の判断,それぞれについて信用できない理由についても何の判断も示していない。そもそも,いかなる証拠に基づいて,被控訴人ケイテムの現場責任者が被控訴人ケイテムの労働者の出退勤状況を管理していた,と認定したのかさえ明らかではない。
   原判決の上記認定は,証拠を無視し,経験則に違反した誤った認定であり,是正されなければならない。
 ウ 原判決は,被控訴人ケイテムが,入退社の管理,勤務管理,給与計算,社会保険被保険者資格得喪,福利厚生運営等の基本的な雇用者としての管理を行っていた旨判示し,その証拠として,乙B7の1~5,8の1~4を引用した(原判決26,27頁)。
   しかし,上記判示は誤っている。
   まず,入退社の管理,勤務管理については,前記イにおいて述べたとおりであって,被控訴人PEDJ正社員が管理しており,被控訴人ケイテムは何ら管理していない。確かに「TIME SHEET」(乙8の1~4)には,控訴人の勤務時間が記入されている。しかし,これらが被控訴人PEDJが管理していた勤務管理表(甲31)に基づいて作成されたものにすぎないことは,前記イの事実から明らかである。
   また,被控訴人ケイテムが給与計算,社会保険,福利厚生運営等を管理していた証拠として引用されている乙B7の1~5は「賃金台帳」に過ぎず,かかる証拠から上記認定を行うことはあまりに飛躍がありすぎる。後述3のとおり,賃金については,被控訴人PEDJが事実上決定しており,被控訴人ケイテムは,被控訴人PEDJの決定に従って「賃金台帳」(乙B7の1~5)等の書類を整えるだけの存在でしかなかったのである。
   以上より,被控訴人ケイテムが,何ら労務管理を行っていなかったことは明らかである。原判決が判示する「基本的な雇用者としての管理を行っていた」と認められるためには,形式的な何らかの書面が存在しているだけでは足りず,実質的にも管理にふさわしい実態が伴っていなければならないはずであり,この点から上記判示は誤りである。
 エ そもそも,被控訴人ケイテムから控訴人ら労働者に対し,業務指示,指揮命令が行われたという証拠は皆無である。また,被控訴人ケイテムが労務管理を行っていた証拠についても,せいぜい原判決が引用した程度しかなく,それらに何ら証拠としての価値がないことは前記のとおりである。
   一方,被控訴人PEDJが控訴人ら社外工に対し,業務指示,指揮命令を行っていた証拠や労務管理を行っていた証拠は,前記のとおり,控訴人の供述だけでなく,福井労働局による是正指導書,被控訴人PEDJ正社員であるPC氏証人・PB氏証人の証言,その他の書証等,様々な証拠によって裏付けられている。
   被控訴人PEDJ,被控訴人ケイテムが主張するように,真実被控訴人ケイテムが指揮命令,労務管理を行っており,被控訴人が指揮命令,労務管理をしていなかったというのであれば,上記のような証拠の偏りが生じるはずはないであろう。
   以上の点からしても,原判決の誤りは明らかであり,是正されなければならない。
 オ 控訴人らが指摘した被控訴人PEDJによる指揮命令,労務管理は,業務請負において注文主が行ってはならない違法行為である。にもかかわらず,そのような違法行為が行われたという事実は,黙示の労働契約の成否,不法行為の判断において極めて重要な意味を持つはずである。
   ところが,原判決は,控訴人が指摘した重要な事項についての判断を全く示さないまま,被控訴人ケイテムが労務管理をしていたという,極めて恣意的な判示をした。
   控訴審において,原判決の恣意的な判示は是正されなければならず,控訴人が指摘した事実が認められるのか否か,認められるとして,その事実が黙示の労働契約の成否,不法行為の成否の判断においてどのような意味を持つのかが判断されるべきである。
 3 被控訴人PEDJによる賃金決定への関与
(1)原判決の判示概要
   原判決は,控訴人に対して被控訴人ケイテムから賃金が支払われており,2006(平成18)年10月末日までは,定額の基本給を基礎とする給与体系によっていたこと,被控訴人PEDJが控訴人の賃金決定への関与を否定し,被控訴人ケイテムが被控訴人から独立した会社であること,被控訴人ケイテムの企業規模と業務内容,被控訴人ケイテムが被控訴人ケイテム労働者の出勤・有給を管理し,賃金・社会保険を管理していたことから,被控訴人PEDJが控訴人の賃金を事実上決定して支払ったとは認められない,とした(原判決27頁)。
(2)原判決の誤り
 ア 原判決は,賃金決定についても,控訴人の主張を全く無視した判示をしており,誤っている。
   原告準備書面(7)21,22頁においても指摘したことであるが,以下の事実に鑑みるなら,被控訴人PEDJが控訴人ら社外工の賃金を事実上決定していたことは明らかである。
 イ 被控訴人PEDJと被控訴人ケイテムとの間では,「業務請負契約」及び「業務請負覚書」が締結されていた(乙A4,5)が,そもそも同契約に記載されている「キーボードスイッチまたは自動車スイッチの製造」の業務は控訴人が従事していた業務ではない。また,覚書にはそれぞれの作業について「単価」が記載されているが,控訴人の業務について,控訴人ら社外工が製造した検知スイッチの種類,個数を特定して把握することはされていなかった(河本8,34頁)し,そもそも正社員と控訴人ら社外工が混在して就労している就労状況では個別の把握など物理的に不可能なことであった。この点は,PC氏証人も「私はそのような,特定して分けて把握はしておりませんでした」と認めていた(PC氏21頁)。
   それゆえ,被控訴人PEDJが被控訴人ケイテムに支払っていた金員は,業務請負にかかる仕事の完成の対価ではなかった。
   そして,前記のとおり,控訴人ら社外工については,被控訴人PEDJが勤務時間管理表に勤務時間を記入させ,これを回収して管理していたのであって,それ以外に,控訴人ら社外工の業務内容,業務量について客観的に計測する指標は何もなかった。それゆえ,被控訴人PEDJが,控訴人ら社外工の勤務時間を計算することにより,控訴人ら社外工の賃金相当額を決定し,被控訴人ケイテムに対する支払額を決定していたのである。
   この点については,被控訴人PEDJの正社員であるPB氏証人の証言によっても裏付けられている。すなわち,PB氏証人は,被控訴人PEDJの正社員,社外工それぞれについて,「我々が管理している基準の労務費というのがあ」ると証言し(PB氏25頁),また,「労務費」は,「パナソニックでの社外工さんのレート」であり,被控訴人PEDJが被控訴人ケイテムに支払っている派遣料金ではない,と証言している(PB氏28頁)。この証言は,被控訴人PEDJが,社外工について,自らの基準としている労務費に従って支払額を決定し,支給していたことを示しており,それゆえ,被控訴人PEDJが控訴人ら社外工の賃金を事実上決定していたと認められる。
   また,被控訴人PEDJが社外工レートを使用していたことは,書証によっても裏付けられている。すなわち,甲32は,被控訴人PEDJが社外工を社員に置き換えていこうと計画された案の書面であり,その計画にあたっては労務費についても緻密に検討された形跡がうかがわれ,その中で「社員・社外工レート差(円)」という記載があり,この記載内容からも,被控訴人PEDJが正社員,社外工それぞれについて独自のレートを使用していたことがわかる。
 ウ 以上の事実に鑑みれば,被控訴人PEDJが控訴人ら社外工の賃金を事実上決定していたことは明らかである。
   そもそも,一般的に,注文主と請負業者の利益状況を考えれば,注文主が賃金額(請負金額)を事実上決定しているというのが通常である。すなわち,通常,注文主はできる限り請負業者に支払う金額を減らしたいという意向を有している。そして,請負業者に支払う金額は,本件のように成果物で計算できるような状態になっていないことが通常であるから,労働者の労働時間に応じて決めるしかない。かかる場合,注文主は,必要な労働力から逆算して労働者に支払うことのできる賃金額に基づいて,請負業者に発注する。請負業者は,その金額での請負を拒否して値上げを求めれば,別の請負業者に発注され,受注できなくなる恐れがあるため,請負業者は注文主の発注金額を受け入れるしかない。以上のとおり,一般的に考えても,労働者の賃金を事実上決定するのは,注文主なのである。さらに,派遣先が派遣元に支払う金額が派遣労働者の労働時間により決まる派遣労働の場合,ますます派遣先が派遣労働者の賃金額を事実上決定することになることは明らかである。
   ところが,原判決は,控訴人が,被控訴人PEDJが事実上賃金を決定していたことを裏付ける証拠を指摘したにもかかわらず,その指摘に対して何の判断も示さないまま,また,一般的な注文主(派遣先)と請負業者(派遣元)との利益状況をも無視して,前記のとおり,根拠とならない証拠等を引用して,被控訴人PEDJが控訴人ら社外工の賃金を事実上決定していたことを否定したのである。
   なお,原判決は,あたかも,被控訴人ケイテムの企業規模及び業務内容によれば,被控訴人PEDJが社外工の賃金を事実上決定するようなことはほとんどありえないかのように判示している(原判決27頁)が,誤っている。なぜなら,厚生労働省の作成した「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(甲14)においてさえ,「派遣元は企業としての人的物的な実体を有するが,当該労働者派遣の実態は派遣先の労働者募集・賃金支払の代行となっている場合その他これに準ずるような場合については,例外的に派遣先に労働者を雇用させることを約して行われるものと判断する」(11頁)ものとされているのであり,「労働者派遣の実態」について判断し,派遣元が賃金支払いの代行となっている場合に準ずるような場合であれば,たとえ派遣元が企業としての実体を有していようと,派遣先が雇用主とされるのである。
   以上から,原判決の誤りは明らかであり,是正されなければならない。

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