上告理由書、パナソニック若狭工場・地位確認等請求上訴事件

 ◇上告理由書

最高裁判所 御中
上告人訴訟代理人弁護士  海道宏実
               同  吉川健司
               同  村田浩治
               同  河村学


第1 控訴審の審理及び上告理由の骨子

 控訴審において,上告人は第1審での主張を補充するとともに,予備的主張として上告人と被上告人パナソニック㈱(以下「被上告人パナソニック」という)との明示の労働契約の成立を追加し,損害賠償請求の根拠として信義則違反を追加した。そして,控訴審での審理においては,上告人本人及び被上告人㈱日本ケイテム(以下「被上告人ケイテム」という)の元社員●●(以下「●●」という)のみが尋問採用され,しかも●●証人は尋問期日に出頭せず,上告人本人尋問のみが実施された。
 ところが,原判決には,(1)黙示の労働契約が成立しない理由について全く付されていないばかりか,「特段の事情」の有無についても全く判断が回避されており,(2)明示の労働契約が成立しない理由についても付されておらず,(3)さらに信義則違反を根拠とする損害賠償の成否についても全く判断が回避されていた。
 よって,原判決には,理由不備,判断遺脱,審理不尽の上告理由(民事訴訟法312条2項6号)が認められる。

第2 黙示の労働契約の成否の判断における理由不備

 1 原判決の判示

 原判決は,上告人の就労等の実態について事実認定した後,被上告人パナソニックと上告人との間に当初より黙示の労働契約が成立したことを基礎付ける事実として上告人が主張する事実のうち,認定できる事実は,基礎となる事実及び上記(1)で認定した事実のみであると判示しつつ,「これらの事実から」とだけ判示しただけで被上告人パナソニックと上告人との間に当初より黙示の労働契約が成立していたものと認めることはできないと結論づけた(原判決p31)。

 2 理由不備

 上告人は,控訴理由書や控訴人準備書面(3)等で,具体的な事実をもとに,被上告人パナソニックと上告人との間には,事実上の使用従属関係,労務提供関係,賃金支払関係があるといえるから,両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるので,黙示の労働契約が成立すると主張した。
 控訴理由書においては,第1審で取り調べられた証拠を具体的に引用しながら第1審判決の事実認定の誤りを指摘する(p7ないし20)とともに,第1審判決で判断が回避された重要な事実として①2006(平成18)年11月1日の業務請負から派遣への切替における上告人の労働実態に何の変化もなかったこと②2008(平成20)年2月ころに開始された派遣労働者の請負化計画において被上告人パナソニックが上告人ら社外工に対して雇用主でなければできない教育訓練,人員配置の決定等をしたことを指摘し,これが証拠に基づき認められることも主張した(p20ないし25)。
 さらに,控訴人準備書面(3)においては,原審において取り調べられた証拠,具体的には上告人供述,その中での●●証人から聴取した内容(●●証人自身タイムカードで出勤確認していないこと,タイムカードは被上告人ケイテムにすら送らず被上告人パナソニックの事務所で保管していたこと,被上告人ケイテムが賃金表を作っていなかったこと,タイムカードに従って賃金を決定していなかったこと)(上告人供述p18,19),業務日誌(甲45),を具体的に引用して,上告人の主張を補充した。
 しかし,原判決が認定した事実を前提としたとしても,その事実を具体的にいかなる評価をして論理的に黙示の労働契約の成立が否定されたのかについての判示は一切なされていない。唯一「これらの事実から」と判示したのみであるが,認定された事実となされた判断との間にどのような評価や論理が介在しているのか,全く読み取ることが不可能である。このような判示では,判断の根拠付けが全くなされておらず,理由不備が認められることは明らかである。

第3 黙示の労働契約の成否の「特段の事情」の有無についての判断遺脱

 1 原判決の判示

 原判決は,松下PDP最高裁判決が判示した「特段の事情」の有無について全く判示をせず(原判決p31),判断をした形跡が認められない。

 2 判断回避

 上告人は,控訴理由書において,第1審判決が「被告らが労働者派遣法に違反する状態にあることを知りながら(被告らの企業規模,業務内容に照らせば,原告の就業が労働者派遣法に違反するものであることは認識していたものと容易に推認できる)」(第1審判決p32)として,上告人の就業が違法であることの認識していた被上告人パナソニックが,違法を熟知しながらあえて脱法目的で偽装請負の形態をとってきたことを「特段の事情」と主張し,第1審判決における判断回避の誤りを主張した(p31)。
 また,上告人は,控訴人準備書面(3)においても,被上告人らが法規制を故意に無視して脱法目的で労働者派遣という形式を利用してきた実態があるという本件事案の特徴を黙示の労働契約の成立の法解釈にあたって十分検討すべきであるとして,少なくとも「特段の事情」に該当する事案にあたると主張した(p6)。
 本件事案の特徴である被上告人らの脱法目的による労働者派遣形式の利用の悪質性について,上告人は,第1審段階から繰り返し主張しており,原告準備書面(6)においては,被上告人パナソニックの過去の行為を裏付ける新聞記事等(甲40)を引用しながら,被上告人パナソニックが行政当局にわからなければあるいは違法状態の指摘を受けるか是正指導を受けなければ違法状態を継続することに躊躇がなく雇用責任回避の意図を持って契約形態を選択してきたこと,被上告人ケイテムもこのような被上告人パナソニックの脱法目的の意図を認識しながらこれに協力してきたことを主張していた(p1ないし7)。そして,原告準備書面(7)においても,以下のように主張した(p5ないし7)。
 『本件では,違法な就労形態の実態に加え,とりわけ被告PEDJの違法行為の程度とその責任が厳しく問われなければならない。
 そもそも,被告PEDJ若狭工場においては,2000(平成12)年以降,正社員に代わって,いわゆる社外工といわれる社員が就労をするようになり,これら社員が徐々に増加したのである(P●●10頁)が,この社員の多くがいわゆる偽装請負といういわれる就労形態で働いていたことは明白であり,現に是正指導書(乙A14,乙B4)でも違反事項として1999(平成11)年8月6日からの偽装請負が指摘されている。そして,そのことの問題性は十分に認識されていた(P●●10,11頁)。
 既に原告準備書面(6)で述べたとおり,被告PEDJは,いわゆる偽装請負,違法派遣を問わず,社外労働者を雇用責任を回避しながら活用しようとする方針をもち,労務管理上の指針としてきた可能性が高い。
 被告PEDJ若狭工場における就労形態は,他のグループ会社と共通であることは明らかである。そして,被告PEDJにおいては製造業において労働者派遣が可能となった2004(平成16)年3月1日以降,現行派遣法の活用を検討すると報道されながら(甲40の1),実際は原告のように請負契約のまま就労を継続していたものであり,これが2006(平成18)年10月に大阪労働局から是正指導を受け新聞記事を飾るほどの社会的批判を受けるに及んで,労働者派遣契約に変更したことは時期的にも明白である(甲40の4)。
 しかも,後述するように,原告自身が,2005(平成17)年の段階ですでに派遣労働開始から1年を越えており(なお,「同一の業務」の基準でみれば2004(平成16)年の段階ではすでに派遣受け入れが出来ない状態であるがそれを置くとしても),実質派遣の状態であった被告PEDJにおいては,労働者派遣契約での就労はできなかったはずである。それにも関わらず,形式上は労働者派遣契約としながら,派遣法に規定される規定を無視した労働者派遣契約を締結した結果,本来的な派遣法による規制を免れて労働者派遣という法形式でさらに原告を就労させてきたものである。
 被告PEDJが違法な契約形式を繰り返し利用し,原告に対する現行法上の義務をも無視してきたことを放置すべきではない。被告PEDJは,原告を指揮命令し,労務提供させてきたものであり,法律上の権限なくして原告を指揮命令して労務提供を受け収益を上げてきたものであって,被告日本ケイテムは,その幇助をしてきたに等しい。かかる被告らの違法行為が放置されてはならない。
 本件のもっている社会的意味と法制度の逸脱の程度を十分に斟酌した判断がなされるべきである。被告PEDJが同様の違法行為を繰り返してきたことは,派遣会社による「雇用契約」の有効性に疑いを差し挟む「特段の事情」となるし,さらに契約の有効性を前提としても,不法行為上の違法性の評価判断において斟酌される必要がある。』
 しかし,原判決は,主張整理において上告人の上記主張を引用すらせず(原判決p14),その判断においても全く判示をしていないのである。このような原判決は,意図的に「特段の事情」についての判断を回避しているとしか考えられず,断じて許されないと言わざるを得ない。判断遺脱が認められることは一見して明らかである。

第4 明示の労働契約の成否の判断における理由不備

 1 原判決の判示

 原判決は,明示の労働契約の成否について,上告人の異議を留めた意思表示は新たな申込みとみるべきであるとして,上告人の主張自体失当と判示したのみならず,上告人の主張に沿う証拠は第1審における主張及び証拠等に照らして信用できないとして否定した(原判決p34)。

 2 理由不備

 上告人は,控訴理由書において,具体的な事実を指摘し,労働契約の成立要件を主張して明示の労働契約の成立を主張した(p35ないし38)。 また,上告人は,控訴人準備書面(3)においても,上告人本人尋問結果を踏まえた具体的な事実主張と被上告人パナソニック主張に対する反論も主張した(p7ないし13)。
 具体的には,上告人本人尋問の結果,①被上告人パナソニックが2009(平成21)年1月16日に,上告人に対して,時給810円のアルバイトという条件で労働契約を申し込んだこと②これに対して,上告人が同月22日,賃金等の労働条件の改善を求め続けるという意味で今後の労働条件については異議を留保しつつ,被上告人パナソニックからの直接雇用の申込みを承諾したこと③その後,上告人による異議を留めた承諾の意思表示が被上告人ケイテムを通じて被上告人パナソニックに到達したこと④同年3月4日に,被上告人パナソニックも,上告人が異議を留めて直接雇用の申込みを承諾したことを聞いていると自認していたこと,が認められるので,2009(平成21)年1月22日ころ,上告人と被上告人パナソニックとの間では,時給810円のアルバイトという内容の労働契約が成立していたと認められる。
 そして,このように上告人と被上告人パナソニックとの間で労働契約が成立していたことは,上告人がその後にとった具体的な行動及び上告人代理人が当時被上告人代理人に対して電話や書面(乙A10)で通知していた内容とも合致していることを指摘した。
 しかし,原判決は,まず,上告人の異議を留めた意思表示について何ら理由を述べることなく新たな申込みとみるべきと判示した(原判決p34)。また,上告人の主張に沿う証拠が不自然で信用できないと判示した理由についても,「上告人の第1審における主張及び証拠等に照らして」とだけ判示するのみであり(原判決p34),具体的にどのような上告人の第1審における主張内容と証拠がいかなる意味で上告人の主張に沿う証拠が不自然で信用できないと判断したのか,全く判示されていないのである。よって,理由不備が認められることは明らかである。

第5 信義則違反を根拠とする不法行為の成否についての判断回避

 1 原判決の判示

 原判決は,信義則違反を根拠とする不法行為の成否について全く判示をせず(原判決p35ないし37),判断をした形跡が認められない。

 2 判断回避

 上告人は,控訴人準備書面(3)において,最高裁で確定したパナソニックエコシステムズ事件判決(名古屋高裁平成24年2月10日)の外,三菱電機事件判決(名古屋地裁平成23年11月2日),日本精工事件判決(東京地裁平成24年8月31日)も引用しながら,派遣先が派遣労働者に対して信義則上の義務を負う一般論を述べた上で,具体的事実を摘示して被上告人パナソニックらの上告人に対する一連の行為が上告人の勤労生活を著しく脅かす,信義にもとる行為に該当するので不法行為に基づく損害賠償義務を負うと主張した(p15ないし18)。
 いわゆる派遣切り裁判の中でも,他の訴訟事案と比べた本件事案の特徴として,①雇用期間満了後ないし中途解約後に労働局へ申告した事案,労働局へ事後にも申告しなかった事案とは全く異なること②派遣先から直接雇用の申込みすらなく排除されていった事案とは全く異なること③派遣労働者の地位を失ってから団体交渉を求めた事案,団体交渉すら求めなかった事案とは全く異なること④単純労務を提供し同僚の派遣労働者と似たような労務提供を行ったり地位にあった事案とは全く異なること,を上告人は指摘していた(p14,15)。
 しかし,原判決は,主張整理において「④直接雇用を無視した行為」の中に「信義に反する行為」と位置づけた(原判決p22,23)。上告人は,控訴人準備書面(3)において,労働者の適正利用要求に対する報復,直接雇用承諾の無視,不当労働行為等とは別項目をたてて「信義則違反」を不法行為の根拠として主張していた(p13ないし18)ことは明らかであり,まず主張整理自体に誤りが認められる。そして,その当然の帰結として,原判決には「信義則違反」についての判断が全くなされていないのであるから,判断遺脱が認められることは明らかである。なお,第4回口頭弁論調書において,控訴人準備書面(3)は新主張を含むものではないと記載されているが,これは控訴人準備書面(2)p34で下級審判例を引用して「信義則違反」を主張していたのであるから,「信義則違反」が新主張ではなく当然に主張整理に加えられるべきものであることを念のため指摘しておく。

第6 ●●(以下「●●」という)証人尋問を却下したことの審理不尽

 1 控訴審における●●証人尋問請求の却下

 上告人は,2012年4月9日付け証拠申出書において,当時被上告人ケイテムの労働者であった●●と●●の2名の証人尋問を請求した。
 ところが,控訴審裁判所は,第2回口頭弁論期日において,●●証人を採用しなかった。

 2 証人尋問の必要不可欠性

 ●●証人は,遅くとも上告人が福井労働局に被上告人らの偽装請負を申告した直後の2008(平成20)年11月以降被上告人ケイテムの福井事業所長の地位にあった労働者であり,●●の上司として●●を指揮監督したり,被上告人パナソニックと被上告人との間の賃金決定等に直接関与していたことから,黙示の労働契約の成否を判断する上で必要不可欠の証人であった。また,●●証人は,被上告人から求められた3つの選択肢に対して上告人が直接回答した被上告人ケイテムの担当者であり,明示の労働契約の成否を判断する上でも必要不可欠の証人であった。さらに,●●証人は,上告人と被上告人ケイテムの契約更新を終了した福井事業所長の地位にあったのであるから,これに至る被上告人パナソニックとのやりとりについても当然知る立場ないし直接関与していた立場にあるから,上告人は排除されていった不法行為の成否を判断する上でも必要不可欠の証人であった。

 3 審理不尽

 このように,上告人が証人尋問を請求した●●は,黙示の労働契約の成否,明示の労働契約の成否,不法行為の成否,いずれの点を判断する上でも必要不可欠な証人であった。
 ところが,控訴審裁判所は,上記の点を判断する上で必要不可欠な証人を採用しなかったのである。とりわけ,第1審,控訴審を通じて被上告人ケイテムに雇用された労働者証人について全く尋問がなされないまま審理が終結して原判決がなされてしまったことで,事実解明が十分なされなかったことは問題である。
 このような意味から,審理を尽くさなかった結果,控訴審裁判所は,上告人の主張を認める証拠が足りない等という理由で上告人の請求を認めなかったのであるから,審理不尽が認められることは明らかである。

第7 まとめ

 したがって,原判決には,理由不備,判断遺脱,審理不尽の上告理由(民事訴訟法312条2項6号)が認められる。

第8 おわりに

 上告人は,控訴人準備書面(3)において,「派遣労働者のおかれた権利状態に対し期待される司法の役割」として,以下のとおり主張した(p19,20)。
 『原判決は,被控訴人らが労働者派遣法に違反する状態にあることを知りながら(原判決32頁),すなわち被控訴人らの違法性の認識を認定していながら,控訴人と被控訴人PEDJとの間の労働契約の成立を否定したばかりか,被控訴人らの不法行為責任まで否定したのである。これでは,労働者派遣法に違反した状態で働かせられた派遣労働者が全く救済されないまま放置される一方で,違法行為を認識していた(本件では脱法目的で意図的に行っていた)派遣先企業及び派遣元企業をすべて免罪させることになってしまう。いかに使用者が労働者派遣法違反を犯しても何らの責任を負うことなく労働者だけがまさに「物」扱いとして切り捨てられることを許してよいのか。このような不正義・不公平な結果を追認してよいのか。このような結果を許しては,繰り返される労働者派遣法違反は一向に是正されないどころか,やり得を許し,労働者派遣法を遵守する法遵守の意識を希薄化させ,法秩序の混乱を誘発するだけではないか。リーマンショック後のいわゆる派遣切りにより切実な社会問題として浮き彫りになった派遣労働者の劣悪かつ不安定な地位・権利状態に対し,一向に改善がすすまない社会情勢の下で,司法に期待される役割は極めて重大であり,控訴審ではまさにこの点が問われているといってよい。」(控訴理由書6,7頁)。
 現在においても依然として,派遣労働者等非正規労働者の劣悪かつ不安定な地位・権利状態は続いているどころか一層悪化しており,そのような中これを改善しようとする立法や施策がすすんでいない状況は何ら変わっていない。
 そして,正規労働者への道も派遣労働者の道も閉ざされた控訴人自身の生活は,意見陳述や控訴人尋問で述べたとおり苛酷な現状に置かれている。控訴人は,現在全くの無収入の状態におかれている一方で,請負会社を選択した同僚の派遣労働者は現在もなお被控訴人パナソニックで働く場を得ている(控訴人供述p17)。
 原判決を含めたこの間のいわゆる派遣切り事件裁判には,残念ながら多くの問題点が指摘されているところであり,萬井龍谷大学名誉教授は「訴えられた事案について『良心に従い独立してその職権を行』う,つまり自ら事実関係を丹念に検討し,判断するという憲法76条3項が定める裁判官本来の使命を忘れ去ったのではないか,と思われるほどである」と述べるほどである(甲46p37)。
 控訴審として,原審と同じく不正義・不公平な結果を追認する立場にたつのか,それとも本来の司法の果たすべき役割に立ち返ってこれを許さず是正する立場にたつのか,法と正義に基づいた判断が求められている。』
 最高裁としても,まさしく同じことが求められている。
 誠実に働いている上告人をはじめとする派遣労働者にとって,納得できる法と正義に基づく判断をされるよう,強く要請するものである。以上

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