上告受理申立理由書(1)、パナソニック若狭工場・地位確認等請求上訴事件

◇上告受理申立理由書

最高裁判所 御中
申立人訴訟代理人弁護士 海道宏実
               同 吉川健司
               同 村田浩治
               同 河村学

第1章 はじめに(事案の概要と争点)
 
第1 事案の概要

 本件は、2005年(平成17年)2月から、相手方パナソニック若狭工場で勤務し就労から2年が経過した申立人が、2007年10月ころ相手方パナソニックの請負化計画の工程リーダーとなるよう指示を受けていたにも関わらず、その後、請負化計画中止をきっかけに申立人が違法な就労実態を労働局に告発したことをきっかけに、労働組合に加入し、その後、労働局の指導もあり、相手方パナソニックが雇用安定を図る措置をとったものの、直接雇用を望む申立人にはきわめて低条件のアルバイト契約が提示されたため、申立人が労働組合による団体交渉を求め、アルバイト契約に応じる旨を表明したにもかかわらず、相手方パナソニックが申立人の相手方パナソニックでの就労の継続を拒否したという事件である。

第2、申立人に対する相手方パナソニックの行為の不当性

 そもそも相手方パナソニックが行おうとしていた請負化計画は相手方パナソニックのグループ会社において実施された請負化が労働者供給として指導されていた中でのものであり、相手方パナソニックは違法行為を繰り返し指摘されてきたのである。
 その後、申立人の申告がきっかけで、福井労働局が申立人を含む実質的な派遣労働者らに対し、雇用の安定を図る措置を前提に違法な就労形態を改めるよう指導したこと、もともと行程リーダーとして声をかけられていた労働者であったにも関わらず、相手方パナソニックは、直接雇用は時給810円の有期契約という低廉な労働条件を提示するのみであったこと、申立人が代理人を通じて文書で直接雇用に応じる旨を表明し、異議を留めた承諾をして労働条件について交渉を続けようとしたこと、相手方パナソニックは代理人を通じて、申立人の直接雇用による就労に対し就労拒否をしたという経緯をたどった。
 本件の特徴は、相手方パナソニックの違法性の程度が強いこと、申立人が直接雇用を求めており相手方パナソニックも低いとはいえ条件を提示していたこと、申立人はこれを受けて就労しようとして承諾していたこと、少なくとも直接雇用関係が成立したこと、結果として業務は継続していたという点で、いわゆるリーマンショック時に起こった派遣切り事件とは異なる経過をたどった事件である。労働組合加入による交渉後に、就労が拒否されたため、不当労働行為事件の要素もあるという特徴をもっている。

第3、労使交渉における交渉力格差を無視した不当性

 一審判決も控訴審判決も、本件の特徴、とりわけ労組加入後の団体交渉要求が全く実現していないという点を全く無視していると言っても過言ではない。また、黙示の労働契約の成否に関しても、不法行為の成否、不当労働行為の成否の判断に関しても申立人の主張や証拠に対して信用性がないとして排斥する部分が多いが、十分な理由が示されたとは言い難く、判決は結論を述べるだけに等しいものである。
 偽装請負、違法派遣を廻る最高裁判決(平成21年12月18日判決)が出されて以来、同種事案では、個別事案の特質をほとんど無視した形で同趣旨の結論を下している下級審判決が目立っているが、個別事件毎にその違法性の評価は異なる。原判決のように、使用者の違法の程度も契約解除にいたった経緯も無視するような判断は改められる必要がある。そして派遣元派遣先の両使用者の違法行為に対して裁判所がその違法行為に対し適切な効果を与え、労働者派遣関係における規範を形成する判断を示すべきである。
 かかる観点から本件をみれば、派遣先の都合によって就労形態が画策されていたうえ、一転、それが打ち切られ、さらに直接雇用の条件提示では4年以上も事実上相手方パナソニックにおいて就労していた申立人が労働条件の交渉を求めたのに、交渉を拒否され、やむなく当面は相手方パナソニックの示した労働条件を受け入れて就労を継続したいと表明したのに、相手方らは、申立人を職場から排除したという事案であり、違法性の程度は強く、その経過の中にあっては労働組合無視の不当労働行為も認定できる。
 原判決はこうした観点での検討を全くしていない。このような原判決を維持することは、不安定な違法派遣形態での使用者に対する法規範を遵守するべしという規範をないがしろにしても差し支えないという誤ったメッセージを裁判所が違法行為を行った使用者に送り続けることになりかねない。
 本件の特質を考慮し、法違反に対する明確な規範をしめすことが裁判所に求められる。

第2章 上告受理申立理由の骨子

第1 原判決の判断の要旨

 原判決は、相手方パナソニックが申立人に対して契約関係の変遷と関係なく、指揮命令にもとづき労務提供を受ける関係を4年以上も続け相手方ケイテムはその補助者に過ぎなかったことを認めた。また相手方パナソニックが申立人に対する出退勤管理、勤務評価などを行っていたことも認定している。
 しかし申立人との契約関係が相手方ケイテムとの間に存在していることをほぼ唯一の理由にして相手方パナソニックとの黙示の労働契約の成立を否定した。
 労働者派遣の実態が10年以上も継続してきたことを認定し、労働者派遣法40条の4の義務を事実上回避されてきた実態を認定しながら、労働者派遣法40条の4の申し込み義務の違反を否定し、さらに労働局の指導後、申立人が直接雇用を求めて労働組合に加入したうえで団体交渉を重ねてきた事実を認定しながら、申立人が直接雇用に対する意思表示を書面によって明示的に行っていたにもかかわらず労働契約の成立を否定した。
 そして、これらの契約関係の形成にいたらなかった原因をもっぱら申立人が拒絶したことにあるとして、労働局からの指導が果たされていないにもかかわらず、また申立人の就労の継続の要求を掲げて団体交渉を求めていたにもかかわらず、労働契約が成立するに到らなかった原因をすべて申立人にあるとして相手方らの不法行為責任も否定した。
 原判決の黙示の労働契約の成否に関する判断は、申立人の意思表示の有無や相手方ケイテムとの間の契約書がある点を指摘する以外は、ほとんど理由らしき理由を示していないという点で際立っている。
 要するに原判決は、明示の契約書がない以上、申立人と相手方パナソニックとの間には黙示の労働契約の成立する余地はないと言っているに等しく、また他方で、明示的な意思表示があることは明らかであるのに、その点では労働契約の成立を否定するという矛盾した判断を下している。
 さらに相手方パナソニックと申立人との間で、労働契約の成立の解釈も締結そのものを認定しなかった場合でも、要するに申立人が明確な意思表示を個別的になさなかったとの認定でもって、不法行為も構成しないと判断した。

第2 上告受理申立理由の要旨

1、法令解釈に関する重要な事項に関する判断

(1)黙示の労働契約を否定した解釈の誤り

 原判決は、労働契約の要素が労務提供に対する対価としての賃金支払いであるという点をあまりにも軽視している。その結果、相手方パナソニックが申立人を指揮命令し、労務提供を受けて、さらにその評価を行い配置まで決定していたという点を認定しながら(原判決28頁~29頁)、偽装請負ゆえ当然ながら偽装された使用者である相手方ケイテムとの「雇用」契約関係や相手方ケイテムの形式上の就労条件明示書面の交付をほとんど唯一の根拠として申立人と相手方パナソニックとの労働契約関係を否定している。
 しかし、申立人と相手方ケイテムとの雇用契約が有効であるとして申立人と相手方パナソニックの黙示の労働契約の成立を否定することは必ずしも結びつかないし、また申立人と相手方ケイテムとの雇用関係を有効とする判断は、相手方らの違法性の程度を考慮しない点で民法90条の解釈を誤っている。
 相手方らの契約関係は1999年(平成11年)から始まる偽装請負と期間違反の違法派遣契約であり、製造業で派遣労働が許されるはるか前から、事実上の派遣労働契約が行われてきた。相手方パナソニックは、2005年(平成17年)から2006年(平成18年)にグループ会社が労働局の指導を受けて労働者派遣契約での就労そのものが違法だという認識を持ちながら、違法な派遣労働契約を継続していた。そのような経過であるが故に、相手方らは、平成20年12月に福井労働局から直ちに労働者派遣契約での就労を中止するよう指導を受けた。このような経過に照らすと、本件は相手方らによってきわめて悪質な違法行為が繰り替えされてきたことを示している。
 相手方らの違法の程度に照らせば、相手方らの労働者派遣契約は申立人が就労した当時、民法90条によって無効と判断できる特段の事情があった。したがって、申立人と相手方パナソニックとの指揮命令関係をいわゆる労働者派遣における指揮命令関係に過ぎないとして、申立人と相手方パナソニックの労働契約成否の判断で全く考慮しないとするのは誤りである。
 また、申立人と相手方ケイテムの労働契約関係が有効であるとしても、労働契約関係は形式上の意思表示ではなく、指揮命令、労務提供の客観的な事実から認定されるところの労働契約の意思表示の合致が認定されるか否かで判断されるべきであり、申立人と相手方ケイテム、相手方パナソニックとの間に二重の雇用契約関係が成立したとしても矛盾はないから、違法な状態での指揮命令関係が派遣契約上の指揮命令関係に過ぎないとして、黙示の労働契約関係の成否の判断に際して考慮しない原判決は、労働契約の成立にあたっての法令(民法623条)の解釈を誤っている。

(2)福井労働局の指導後の明示の労働契約の成立を否定した誤り

 さらに、本件は、福井労働局が具体的に、申立人の相手方パナソニック及び相手方ケイテムの契約下での就労形態が、1999年(平成11年)8月6日から平成18年(2006年)までの7年間にわたる偽装請負であり、その後平成21年(2009年)1月にいたるまで、10年以上にもわたって違法な労働者派遣の就労形態であったことを認定し(原判決7頁~8頁)指導した。
 その指導を受けて相手方パナソニックが提案した直接雇用契約の申出に対し、申立人がその賃金条件が低く、有期契約であることに異議を述べ、労働組合による団体交渉を行い、提訴もしながら労働契約には応じる旨を申立人代理人が表明したから、労働契約の成立を認定することは可能であったにも関わらず原判決は、「労働契約の本質的な要素である期間の定め及び賃金について異議を留めた意思表示は新たな申込み」でしかなく(原判決34頁)、これによって労働契約が成立したとする申立人の主張を、「主張事態失当」と解釈して排斥した(同34頁)。しかし、この労働契約さえも否定した原判決は、労働契約の本質が「労務提供とその対価としての賃金支払いをする旨の合意である」という基本的でかつ重要な解釈を誤ったものであり、判例にも反しているから取消されなければならない。

(3)違法な就労を継続した行為に対す損害賠償を否定した誤り

 原判決は、相手方らが、労働者派遣法40条の4に定める直接雇用申込み義務を事実上回避してきた行為について不法行為を構成しないとしたが、その理由とするところは、当該規定が、労働者派遣法の所定の手続きを経たうえで、労働大臣の指導勧告という間接的な方法での労働契約の締結を促すという制度であり、公法上の義務でしかないこと等を理由に不法行為の成立を否定した。また、労働局の指導後も直接雇用を要求した申立人の申込みは異議をとどめたものであり、申立人が直接雇用を拒否したことなどを理由に労働契約が成立しなかったとして、不法行為も否定した(原判決36頁)。
 しかし、労働者派遣法40条の4は、公法上の義務にとどまるというような解釈は少なくとも改正派遣法制定時の国会の答弁のなかでは展開されておらず、むしろ裁判所による司法的な救済に言及されていたことなどに照らすと、労働者派遣法40条の4の規定の回避行為が不法行為を構成しないとした原判決は労働者派遣法の解釈で重大な過ちを犯している。
 さらに、労働局の指導を受けて、申立人が派遣契約満了時までに労働組合を通じて直接雇用の申し入れをしている事実があるにも関わらず、労働契約の締結を拒否する相手方パナソニックの行為について、もっぱら申立人の契約拒否の結果であるとして不法行為責任を否定した原判決は、長年にわたって違法な就労形態を継続してきたうえで、雇用の安定をはかることを求められているという経緯を考慮していない不法行為の違法性(権利侵害)の解釈適用について誤りがある。

(4)不当労働行為による損害賠償を否定した判断の誤り

 原審判決は、申立人が相手方の直接雇用の条件を受けて、直ちに契約の締結を拒否したという認定を行い。それゆえに契約締結に至らなかった理由をすべて申立人に求めている。
 しかし、申立人は、あくまで相手方パナソニックでの就労を希望していた。とりわけ、賃金が大きく減額となる点について不満を述べていたことは事実である。しかし、申立人は、明確な拒否の意思表示をしていたわけではない点を原審は看過している。
 とりわけ、提訴後にも代理人を通じて直接雇用での就労意思を表明し、さらに契約期間終了間際まで、労働組合による団体交渉を求め事実上の協議を行っていることは、それまで明確な連絡がないまま、期間が迫ってきたから送付されたものであり、申立人が拒否したことのみが原因で相手方パナソニックからの直接雇用が締結されなかったのではない。労働組合が交渉過程において、しばしば決裂にいたることはあるが、それは労働や労働者のみに起因するものではない。事実経過を踏まえて、労働組合排除の意思表示の有無を判断し不当労働行為となるのか否かを判断しなければならなかった。このような現象には申立人の拒否が形式上の理由にされている場合であっても、相手方パナソニックにおいて、労働契約締結拒否について正当な理由がなければ、それは不当労働行為が肯定されるはずである。原判決は労働組合法7条に示す不利益取扱、団体交渉拒否の解釈を誤っており、この解釈は原判決の結論を左右する重大な法解釈の誤りといわなければならない。
 さらに本件は、いわゆるリーマンショック後に大量の起きた派遣切りの中で、派遣労働者の地位を失ってから団体交渉を求めた事案とは全く事案を異にしている点も重要である。もっぱら申立人の対応のみを問題にした原判決の解釈は改める必要がある。

2、判例違反

(1)申立人と相手方らの契約を無効とする特段の事情があること

 原判決は、申立人と相手方ケイテムとの雇用契約が有効であるとして、申立人と相手方パナソニックの黙示の労働契約の成立を否定した。しかし相手方らの契約関係は1999年(平成11年)から始まる偽装請負事案であり、製造業で派遣労働が許されるはるか前から事実上の派遣労働契約が行われてきたこと、相手方パナソニックは、2005年(平成17年)から2006年(平成18年)にグループ会社が労働局の指導を受けて労働者派遣契約での就労そのものが違法だという認識を十分に持ちながら、違法な派遣労働契約を継続していたこと、それゆえ相手方パナソニック福井工場も2009年(平成21年)1月23日までに、福井労働局から、直ちに労働者派遣契約での就労を中止するよう指導を受けたことなどに照らせば、相手方らの行為がきわめて悪質な行為であったと認定出来る。その違法の程度は、相手方らの労働者派遣契約が、申立人が就労した当時から民法90条によって無効と判断できる特段の事情がある。
 実質的な労働者派遣の場合、特段の事情がなければ、労働者派遣契約による派遣元との雇用関係は無効ではないとした最高裁判例の基準を考慮していないのは判例(最高裁平成21年12月18日判決)に反している。

(2)賃金に関する合意がなくても労働契約が成立するとした判例違反

 申立人は、平成20年12月18日の福井労働局の指導後、相手方パナソニックから直接雇用の選択肢を提示された(平成21年1月16日)。申立人は、時給が大幅にさがる提示に「これでは生活できない」と難色を示したが最後は異議を留めつつ、職場に残る選択をしたうえで、労働組合を通じて申し入れると共に、代理人交渉を求めた相手方パナソニックの指示を受けて代理人名で連絡をとった。
 申立人代理人は、契約期間、賃金について異議を留めつつ、就労する意思があることを明確に表明した。
 労働契約の本質は、労務提供とそれに対する対価足る賃金支払いの合意で成立する。したがって、申立人の代理人を通じての承諾の意思表示において契約期間や賃金についての異議があったとしても、それはあくまで異議を留めての承諾の意思表示であり、新たな労働契約の申込みに当たらない。申立人は、労働条件を交渉したいと考え相手方パナソニックに対し団体交渉を求めていた。
 この点、偽装請負の指導に際して、直接雇用契約の条件をめぐり使用者性、及び団体交渉応諾義務の可否が争われた中央労働委員会の命令に対し使用者側が取消を求める行政事件訴訟において東京高等裁判所は、平成23年12月21日判決において、労働契約の成立は「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意した場合には、賃金の確定的額など労働条件の内容について合意に到っていない事項がある時であっても、労働契約の成立は妨げられない」との判断を示しているものであり、原判決はこの判例に反している。

(3)報復行為に関する損害賠償を認めた判例違反

 本件は、労働局に対する是正指導を求めた上で、労働組合が団体交渉を求め直接雇用の条件に関して異議を留めつつ就労継続を求めた点では、最高裁平成21年12月18日判決と全く同じである(派遣先使用者は同じグループ会社である)。
 確定しているパナソニックプラズマディスプレイ事件は、直接雇用後の就労内容、その後更新しないで雇い止めを行った一連の行為を不法行為として損害賠償を認めたが、本件は、報復的な意図でもって、直接雇用すら行わなかったという点で前記判例と同様の不当労働行為事案であり、直接雇用すらしなかったのだから、より悪質であるのに、損害賠償を認めない判断は、判例に反している。

(4)信義則違反による損害賠償を肯定した判例違反

 労働者派遣においては,派遣元が雇用主として派遣労働者に対して雇用契約上の責任を負い派遣先においては派遣労働者に対して契約上の責任を負わないのが、派遣労働者を受け入れ,就労させる場合,労働者派遣法上の規制を遵守するとともに,その指揮命令のもとに労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて,派遣労働者に対し,信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務がある。本件は、申立人に対し、請負契約の主任にすると述べ、それをさしたる説明もなく撤回したあげく、労働局に対して申立人が申告した後は、ただ一人直接雇用を求めている申立人に対し、請負会社に移籍する場合又は派遣元に残留する場合と直接雇用となる場合とで大きな労働条件格差を設け、労働組合の団体交渉要求を拒否し、さらに代理人を通じての直接雇用の条件提示さえ拒否して、申立人の直接雇用での就労の意思を無視するなど申立人を翻弄した。
 ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位におかれている派遣労働者に対し,その勤労生活を脅かすような信義にもとる行為が認められるときには,不法行為責任を負うと解されるとして損害賠償を認めた判例(パナソニックエコシステムズ事件名古屋高裁平成24年2月10日判決・最高裁平成24年10月12日・甲48の1,2)に反する違法がある。

第3章 法令解釈に関する重要事項に関する判断の誤り(民事訴訟法318条1項後段)

第1、原判決が看過した事実

1、本件における違法な就労形態の違法性の大きさ

 本件は、労働契約の成否及び使用者による損害賠償の可否を問う裁判であるから、その事実経過を十分に踏まえ、就労の実態にそくして判断をすべきである。
 すでに述べたとおり、本件は申立人があってはならない就労形態で長年(平成11年から数えれば、11年にわたってであり、申立人の入社から数えても4年以上)にわたって違法な就労形態が継続していた事案である。それが労働者供給であれ、労働者派遣であれ、法律上許されない就労形態をとって申立人の労務提供を相手方パナソニック、相手方ケイテム共に雇用責任があいまいな状態での就労させていた点では変わることはない(原判決、7頁)。

2、相手方パナソニック主導の「請負化計画」とその一方的中止

 ところで、相手方パナソニックは、そのグループ会社でもまた相手方パナソニック自身も、本件以前から、大阪労働局からあいついで指導を受けていながら(甲40号の2,40条の3、40条の4)、本件の証拠上も明らかなとおり、申立人のような偽装請負労働者を自らの労働者と同様に扱い、その評価をしていた。
 原判決では、請負化計画の中止は、平成20年のリーマンショックを要因とするが、そもそも平成18年段階でグループ会社では請負化が、労働局から違法の疑いがあるとして指導され頓挫しているだから、「請負化」計画なるものが適法に勧められる見通しはなかったのである(原判決が無視した事実)。
 相手方パナソニックはその後、受注減少に伴う生産減少と社員対応化をはかり、それを受けて相手方ケイテムは、アンケート調査を行った。申立人は、請負化計画に際して、責任者として工場での生産に従事するよう指示を受けていたにも関わらず一方的な中止に対して不審を感じるようになり、福井労働局に相談していた(原判決7頁が認定した事実)。
 但し、請負化計画時の責任者でもあった申立人に対して人員削減に伴う契約の解除等が、相手方パナソニックから個別に示唆されていたわけではなかった。

3、労働局の申告後の経緯と相手方パナソニックの処理の不当性

 申立人が2008年(平成20年)10月下旬から福井労働局に相談し、その後福井労働局は、2008年(平成20年)12月18日に申立人の申告を踏まえて相手方パナソニック、相手方ケイテムに対し平成11年8月6日から開始された請負契約もその後に労働者派遣契約に切り換えられた契約関係もその実態が同じであることから派遣受入可能期間の制限を受ける契約形態であるとして、当該労働者の雇用の安定を図るための措置を講ずることを前提に、その役務の中止を求める旨の指導を行った(原判決8頁)。
 本来であれば、申立人は労働局の指導対象となった労働者として雇用の安定を図る措置を講じるべき対象者であるから、当事者が直接雇用を求めている以上、相手方パナソニックは申立人に対し誠実に対応する義務があった。
 申立人は本来請負化計画の責任者となる予定であったから、本来は申立人の希望を受けての条件の交渉が開始されて当然であったのに、相手方パナソニックは、一方的な条件提示をするだけであり、さらに申立人は認識していなかったが、契約の承諾の期限も当初はわずか10日と一方的に指定した。

4、申立人自身が就労場所から排除される必要がなかったこと

 労働組合による団体交渉を求めた申立人は、結局相手方パナソニックとの間で労働条件の詳細を確認する機会も与えられないままであった。申立人はやむを得ず3月6日に提訴したが、その後も契約期間満了前に改めて、労働組合による交渉の申し入れを行ったが、相手方パナソニックからは代理人を窓口とするよう示唆したのみで団体交渉には応じなかった(乙A10号証)。
 原判決は、申立人が相手方パナソニック及び相手方ケイテムに対し、その意思表示をしていない点のみを事実として強調するが、本来、労働局の指導を受けて雇用の安定を講じるべき義務を負っているのは相手方らである。そして、指導の対象となった当該労働者である申立人が交渉を求めている場合、これに誠実に対応する義務が相手方にはある。原判決は、こうした事実経緯を全く考慮しておらず、結局、団体交渉が拒否されている事実を全く認定していない。
 その結果、すべて申立人において相手方らの申出に対して応答していないことが労働契約関係を継続しなかった理由としているのは、原判決の大きな誤りの一つである。
 むしろ、この時期、相手方パナソニックでは、いわゆる派遣切りと呼ばれる大がかりな契約解除は生じていなかった。申立人が2009年(平成21年)3月31日をもって契約を解消される相当な理由は全くなく、その原因は、労働局からの指導、労働組合への加入によって申立人が相手方パナソニックとの交渉から排除されたことが大きな要因となっている点を原判決は明らかに見過ごしている。

第2、労働契約の成立(民法623条)に関する重要な解釈の誤り

1、申立人と相手方パナソニックの労働契約の成立を否定する原判決の誤り

 原判決は、申立人と相手方パナソニックの労働契約の成立にあたって、認定できる事実として以下の事実認定をし、これらの事実からだけでは、当初より黙示の労働契約が成立していたと認めることは出来ないと結論づける。

(1)申立人は、相手方ケイテムと契約して契約更新を継続してきたこと、相手方パナソニックは申立人の採用に関与していなかったこと、相手方パナソニックによる申立人に対する指揮命令関係があり、社員と明確に区別されることなく生産に従事していたこと、休日などの管理も相手方パナソニックがしていたこと、相手方ケイテムは時間管理と賃金管理のみを行っていたこと

(2)申立人と相手方ケイテムの間で雇用契約書が作成されていた事実

(3)相手方らの請負契約が労働者派遣であり、その後の労働者派遣契約も派遣受入可能期間を越えた違法な契約であった事実

(4)労働局が前記(3)の事実を認定して、申立人を含む労働者の雇用の安定をはかる措置を前提に契約を解消するよう求めたこと

 しかし、申立人と相手方パナソニックとの間には、労働契約の重要な要素である指揮命令関係、労務提供関係があり、労働契約関係を認定するのは客観的事実から推認されるところの客観的意思の合致があれば足りる。
 そして、相手方らの契約関係は、本来は許されない就労形態であり、たとえば申立人と相手方ケイテムの契約関係が認定されても、それらを前提に申立人と相手方ケイテムの労働契約関係が適法とされるものではない。また申立人に対する相手方パナソニックの指揮命令を正当化することは出来ない。また申立人と相手方ケイテムの間の「雇用関係」も申立人と相手方ケイテムとの間に指揮命令関係、労務提供関係が存在しない以上、雇用契約関係を認定することは出来ない。
 したがって、労働契約の成立要件及び、労働契約においては、客観的事実から推認されるところの意思の合致によって解釈すべきであるとする判例通説の見解を前提にすれば、原判決が認定した事実からも、申立人と相手方パナソニックの指揮命令関係労務提供関係から客観的には労働契約関係の意思の合致が推認できるから、申立人と相手方パナソニック、申立人と相手方ケイテムのいずれとの間にも労働契約関係を認定することは可能である。
 申立人と相手方パナソニックとの間の労働契約の成立が認定出来ないとした原判決は、労働契約(民623条)の解釈を誤った重大な違法がある。

 2、相手方らの「労働者派遣」契約の無効

(1)控訴審では、申立人は、相手方間の労働者供給契約が無効である点を主張し、黙示の労働契約の絶対的な成立要件とは言わないが、相手方らの間の契約関係が無効である場合は,相手方パナソニックが申立人に行っていた指揮命令や相手方ケイテムを介しての賃金の支払いの事実が、相手方パナソニックと申立人との間の黙示的な労働契約を基礎づけるとの主張を加えた。

(2)原判決の判断回避の誤り

 しかし、一審判決は,松下PDP事件最高裁判決を引用し,「特段の事情がない限り,そのことだけ(注:法的に請負契約と評価できないこと)によっては派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効になることはない」と判示し(一審判決28頁)、原判決は、特段の事情の有無として長年にわたって、違法派遣状態であったこと、相手方パナソニック自身が派遣契約、請負契約の範囲を超えて、長年にわたって、相手方パナソニックが労働者を評価しながら使用するという組織形態を相手方パナソニックが取り付けてきたことに全く言及していない。
 相手方らの長年にわたる違法派遣の結果、申立人は、4年以上就労していたにも関わらず何の保証もないままであった。
 相手方らの違法の程度は、その期間の点でも、また請負化計画にみられるとおり、相手方らは違法行為を重ねてきたものであり、この点について申立人は控訴審でもその違法性の程度が与える私法上の効力についての判断を求めたが、原判決はほとんど理由を付さないで契約の効力に関する判断を示していない。
 しかし、原審が判断を回避した相手方らの契約関係は、その期間や程度、内容において明らかに間接雇用禁止(労働者供給の禁止、派遣労働の規制)に反して、申立人ら労働者を不安定にする程度は高く無効とすべきである。
 そもそも相手方らが作出した外観は,申立人を相手方ケイテムの労働者として,相手方パナソニックの指揮命令のもと就労させるというものであった。このような外観を作出しようとしたのは,相手方パナソニックが申立人を正社員よりも低い賃金で就労させるためであり,かつ相手方パナソニックの都合で自由に契約解除を行えるようにするための就労形態であった。そして相手方らは,労働者派遣法の制度趣旨及び規制事項を全く無視した違法な行為を継続してきた。
 相手方らは当初請負を偽装していたが,この行為が労働者派遣法26条等に違反することは明らかである。また,相手方らは,2006(平成18)年11月には労働者派遣契約を締結したとするが,申立人に対する説明もなく,同意も求めることなく(同法32条2項)行われたに過ぎないから、このような場合、労働者派遣が成立する余地はない。
 申立人の就労を労働者派遣としても,既に派遣受入可能期間を経過しており,同法40条の2違反の状態であり、グループ会社も法人本社でも是正指導をうけており、相手方らは、これが違法であることを認識しながら(原判決32頁)違法な外観を作出していたことは明らかである。
 このように,相手方らは請負ないし労働者派遣の外観を作出して、本来の法規制を故意に無視する形で申立人の就労を受け入れているのである。このことは,労働者派遣という形式が,相手方ら被告にとっても単なる形式に過ぎないものであった。
 本件のように10年以上にわたる違法な契約は無効とすべきである
このような企業を放置すれば、法規制に従う意思が全くなく,脱法的にこれを利用してきた相手方パナソニックが,自らの責任を免れるためにその法形式を主張することを放置することになり、労働者派遣が,罰則を持って全面的に禁止されてきた労働者供給事業(職安法44条)及び中間搾取の禁止(労基法6条)の例外としてその限りで限定的に認められた制度が殆ど無に帰してしまう。相手方らの労働者派遣契約は強度の違法性があり,相手方らの契約を有効と判断した原判決は取り消されるべきである。

 3、労働者派遣法40条の4の解釈(重要な法令解釈)

 (1)原判決の誤り

原判決は、一審判決と同様、労働者派遣法40条の4の規定は、その実効性を確保するためにあくまで間接的な方法で労働契約締結の申込みを促すという制度を採用しているに止まるとの前提の下、そもそも、申込み義務違反があっても、相手方パナソニックは直接雇用の申し込みをしておらず申立人の承諾もないとして労働契約の成立を否定した(原判決33頁)。

(2)労働者派遣法解釈の誤り

 しかし、一審における申立人準備書面(7)でも主張したように,労働者派遣法の制定・改正の趣旨や40条の4の規定文言等からすれば相手方パナソニックには申立人に対する直接雇用申込義務違反が認められると解釈されるべきである。
 申立人の主張は、このような義務違反の下で、指揮命令関係を継続し労務提供を受けているという状態にあって、労働者派遣法40条の2の期間制限違反、及び同法40条の4の直接雇用申込み義務違反の状態で相手方パナソニックが指揮命令を行い、それにしたがって申立人が労務提供していたという客観的な事実は、すなわち指揮命令関係及び労務提供関係に加え、本来であれば派遣先使用者による申込み義務が存在する下で、申立人と相手方パナソニックとの間の直接雇用契約の意思が推認出来るということである。
 原審判決は、40条の4の要件を充足していないことや、公法上の義務に過ぎない点などを指摘するが、申立人の主張は黙示の労働契約の成立要素として考慮することが可能であると述べるに過ぎない。
 なお、立法時の政府参考人も、適法な派遣契約関係の下での労働大臣からの勧告が出されていてもなお、派遣労働者に対する指揮命令、労務提供関係が継続している事案を前提にした場合の答弁として裁判所による労働契約関係の成立を裁判所が認定する可能性に言及しているほか(甲13号証、23頁)、行政の指導指針を示した要領において「派遣先が,労働者派遣契約による授権がない中で派遣労働者の指揮命令を継続している状態において,派遣労働者と派遣先企業との法律関係をどう解釈すべきかを問題にしているのであり,この点から「派遣労働者と派遣先との雇用関係が成立していると推定できる,訴訟で派遣労働者は雇用関係の確認を行うことができる」としていることを指摘しており(甲14)行政が期待する役割を裁判所が果たす必要がある。
 原判決は一審同様、労働者派遣法が労働大臣の指導、勧告を通じて間接的に義務を履行させる制度でしかなく、これらの規定は取締法規違反に過ぎないから、私法上の効果は及ばないとする判断を示している。
 しかし、行政取締目的が達成しえない法違反があった時にその違法の程度が公衆に与える影響を考慮するならば、行政取締り法規違反であるから私法上の効果が一切ないという判断は誤っている。ましてや黙示の意思表示の推認の根拠とならないという裁判例は国会答弁にも反することになる。
 本件の労働者派遣法違反は10年以上も長きにわたって継続され、その結果、相手方パナソニックは派遣先事業主として義務を果たしていない。
 このような違法状態を放置しても何ら責任を問われないということであれば、法令を遵守されることは永久に訪れない。原判決が労働者派遣法40条の4が全く遵守されない事態に対し何の効果も与えない判断を示したのは、法令解釈の重要な事項の解釈を誤ったものであり取消されるべきである。

第3 労働局の指導後の有期労働契約の成立を否定した誤り(民法623条 労働契約法6条の解釈)

1 原判決の雇用契約の成立要件の解釈

 申立人は労働局の指導後、相手方パナソニックが申立人を含む派遣労働者に対し、提示した条件に基づいて従前の就労場所での就労を前提にした労働契約が締結され、申立人はその後の労働条件の改善を含む交渉(正社員化要求、賃金の増額、契約期間の無期化など)を求めてきたから、職場から排除されたものの黙示の労働契約関係が否定される場合でも平成21年1月16日の説明会時に労働契約が成立している旨を主張した。
 原判決は、申立人が相手方ケイテムに対しアンケートを提出していないとか、一審での主張などを根拠にして申立人と相手方パナソニックとの賃金時給810円、契約期間3ヶ月を基本とし、最大でも2年11ヶ月まで、退職金なし、年金 企業年金の適用なし。各種保険に加入などの、契約条件が提示され、一週間以内に意思表示するよう説明したこと(原判決8頁)、その後、同年1月29日に申立人の加入する労働組合が団体交渉の申し入れを行った事実、相手方パナソニックがこれらの申し入れを拒否し、説明回の期限後の3月4日に話合いは実施したが、就労については、申立人代理人から異議を留めた上で労働契約に応じる旨の通知をしたこと、これに対し相手方パナソニック代理人が、雇用を希望する場合は、1月30日までに申立人からの申し入れがなかったこと、労働組合との話合いにおいてもすでに申込み期限が過ぎている旨を述べた事実を認定した(原判決10~11頁)。
 その上で、原判決は、雇用契約の成立に関して、ほぼ相手方パナソニックの主張を採用し、労働契約の本質的な要素である期間の定め及び賃金について異議をとどめた意思表示は、新たな申込みとみるべきであって、これによって労働契約が成立したものと認めることは困難であるから、控訴人の主張は、主張自体失当であるとの判断を示した(原判決34頁)。

2 労働契約の成立要件

(1)法令解釈(民法623条、労働契約法6条)の誤り

 原判決の判断は雇用契約(民法623条、労働契約法6条)の解釈を誤り、申立人の主張を主張自体失当であるとして検討していない点で重大な誤りを犯している。
 申立人が、控訴人準備書面(2)においても述べたとおり、労働契約法6条は,「労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する」と規定している。条文の文言上、労働契約の成立要件は,契約当事者間において一方が相手方に使用されて労働し,相手方が一方に対して賃金を支払うことを合意することで足りるのであって、それが労働契約の本質である。
 当該労働者が当該使用者の指揮命令に従って労働に従事し,当該使用者が当該労働者の労働に対して当該労働に対する報酬を支払うという合意のみで成立し、かつそれで足りる。仮に賃金の合意がなければ、最低賃金法や、労働基準法、労働契約法にのっとった均等待遇などから導き出すことが可能であるうえ、有期契約か無期契約かは労働契約の成立に影響しない。少なくとも有期契約で3ヶ月の契約の範囲では成立を認定することは可能である。
 申立人と相手方パナソニックとの間で、労働契約の成立に必要な合意(労務提供とそれに対する対価の支払い)があることは明確である。そもそも労働契約は多様であり、その基本的な合意があれば、最低賃金や労働時間、均等待遇など同僚の労働条件から法定された条件の確定が可能なのであるから、労働契約の成立に際して、合意が抽象的な内容のものであったとしても差し支えはない。
 労働の種類・内容や賃金の額・計算方法に関する具体的な合意であることを要するものではない点については、学説上も争いがないところである(菅野第9版77頁,詳説労働契約法85~87頁等)。また労働契約法6条の規定は,労働者が使用者に使用されて労働することは必要であるが、その労働期間の合意を要件としていないし、多くの論考が期間の定めは労働契約の本質的要素とは考えていない(『労働事件審理ノート[第3版]』11頁)と明記している。
 ところが、原判決は、こうした点を全く考慮することなく、相手方パナソニックの主張をそのまま引用し、労働契約の本質についての合意がない等と解釈しているのであり、原判決の解釈上の誤りは明白である。

(2)労働局の指導に基づく直接雇用の提示である点を看過した誤り

 また、原判決は平成21年1月16日に提示された相手方パナソニックの申立人に対する直接雇用契約の申込みに対し、申立人が相手方パナソニックの指定する期限までに意思表示をしていない点や、相手方ケイテムのアンケートに回答していない点や、申立人の意思表示が明確に示されていない点をとらえて、異議を留めた承諾をしたとの申立人の主張が信用出来ないとして相手方パナソニックからの申出に対する申立人との労働契約の成立を否定した(原判決34頁)。
 しかし、原判決は、申立人に対する相手方パナソニックの労働契約の申込みが、福井労働局の指導に基づき、申立人を含む派遣労働者らの雇用の安定をはかる措置の一環としてなされていること、労働局の指導は、相手方パナソニックに対し、その措置の結果を含めた報告を求めているものであって、本来の趣旨は申立人の雇用の安定をはかる措置としてなされたこと、それにも関わらず、相手方パナソニックは、申立人からの団体交渉要求を拒否し、その結果、申立人は雇用契約締結の機会を失うにいたったという経過を全く考慮しないで、書面などで明示された労働契約締結の合意を求めている点で誤っている。
 そもそも、福井労働局は、相手方パナソニック及び相手方ケイテムに対して、労働者派遣契約関係は、すでに派遣就労受入可能期間を超えていることから、ただちに派遣就労を停止することを求めると共に、当該労働者(申立人を含む派遣労働関係で相手方パナソニックでの就労に従事している労働者)の雇用の安定を図る措置をとることを前提として労働者派遣契約を解消するよう指導したのである(乙A14号証、乙B4号証)。
 したがって、正社員雇用を求めている申立人の意思表示は、労働局の指導を前提にすれば、相手方パナソニックが示した条件のうち、直接雇用契約は、相手方パナソニックが示した条件しかないこと、労働局の指導は雇用の安定を図る措置として示しているのであるから、申立人の要求の範囲でいえば、相手方パナソニックの示した条件の限りで意思の合致は存在したと解釈すべきである。

(3)申立人が直接雇用契約の締結を拒絶された経緯

 申立人は、相手方パナソニックから直接雇用の条件を説明された後、正社員として契約することを求めて要求を掲げ、さらに相手方パナソニックに対し、詳細な労働条件の提示を求めたのである(甲9~12)。
 こうした要求は拒否されたままであったが、他方で福井労働局は相手方パナソニックに対し雇用の安定を図るための措置をとるよう求めたうえで報告を義務づけていたのである(乙A14号証、乙B4号証)から、相手方パナソニックは、本来であれば、その意思表示を確認し、その要求に対して答えうるか否かを団体交渉に応じたうえで、対応する義務がある。
 しかし、相手方パナソニックは、団体交渉を一切拒否し、同年3月4日に話合いをした際も、労働条件の詳細を示すこともなく労働契約締結のための書類も交付しないまま、すでに労働契約の承諾の期間は、同年1月30日をもって終了したとの対応をしたに過ぎない(乙11の2)。
 そもそも、相手方パナソニックの契約条件の提示が労働局の指導によるものであることに照らせば、相手方パナソニックは当該労働者の雇用契約期間終了まで、雇用の安定を図る措置をとる義務を負っているのであるから、本来は、労働者の意向を踏まえて、その雇用の安定をはかるようにとの指導に基づいて対応しなければならないのに契約の承諾の期限をわずか3週間程度(当初10日間)で期限を設けたり、団体交渉の要求があるのにこれを拒否したり、書面による個別の意思表示がないことを理由に契約の成立を否定したり、労働局の指導に反した対応をしている。むしろ、相手方パナソニックから申立人に対して説明会を開催して行った労働条件の提示が労働局の指導をうけてなされた申込みであることを前提にすれば、申立人が団体交渉を申し入れ、労働条件の協議を求めたことをもって労務提供とその対価としての賃金支払いの抽象的な合意が成立したといえる。
 黙示の労働契約が否定される場合でも相手方パナソニックが労働局の指導を受けて申立人に提示した労働条件での労働契約の成立を否定した原判決は、労働契約の成立に関する解釈を誤ったものであり取り消さなければならない。

(4)労働契約成立にあたっての異議を留めた承諾の効果

 原判決は、平成21年3月31日に申立人代理人が、全く団体交渉が行われないまま、相手方パナソニックがすでに契約の承諾の期限が過ぎているとした対応に終始したため、改めて申立人が相手方パナソニックに対し賃金を得て労務提供する意思があることを表明したものであり、新たな労働契約の申込みをしたものではないことは、申立人代理人の村田浩治が送付したファックス内容に記載したとおりである(乙A10)。
 すでに述べたとおり、労働契約の本質が労務提供とそれに対する賃金支払いの意思の合致であるから、「貴社からの条件提示に対し異議を留めたうえで、就労する意思がある」と述べているとおり労務提供の意思と対価としての賃金支払いの意思の合致があったと認定できる。
 異議があるのは、賃金の金額と契約期間等であり、その不合致は労働契約の意思の合致を妨げることにならない。 
 労働条件の詳細な意思の合致を申立人に求めた原判決は、労働契約の成立要件の解釈、相手方パナソニックからの労働契約の申込みの条件が提示された経緯、申立人が労働契約締結に向けて正社員としての採用を求めるという労働条件の本質的要素についての意思表示を示していた事実等を考慮せず、あまりにも詳細で厳格な意思の合致がなければ労働契約の成立を認定しなのは、労働契約の要件に関する解釈を誤るものであり、取消されるべきである。

つづく

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