パナソニック若狭工場事件、控訴審・準備書面(4)

平成23年(ネ)第259号 地位確認等請求控訴事件
控訴人   河本猛
被控訴人  パナソニック㈱ 外

控訴人 準備書面(4)
                        
2012年11月30日
名古屋高等裁判所金沢支部民事部 御中

控訴人訴訟代理人
弁護士 海道宏実
同    吉川健司
同    村田浩治
同    河村学

1 はじめに

 控訴審で取り調べをした証拠を踏まえての控訴人の主張については,既に控訴人準備書面(3)で述べている。ここでは京都府立大学公共政策学部の中島正雄教授に,本件原審判決の問題点及び本件事案の法的解釈について労働法研究者としての意見をいただいたので,その意見(甲50)をもとに法的主張を敷衍する。

2 被控訴人パナソニックとの黙示の労働契約の成立について

(1) 黙示の労働契約の判断基準

 原判決は,被控訴人パナソニックが控訴人を直接指揮命令していたことを認定しながら,被控訴人らが用いていた形式のみを根拠に控訴人と被控訴人パナソニックとの黙示の労働契約を否定した。
 しかしながら,意見書に述べられているとおり,「労働契約に基づかずに,他人に指揮命令をして,労務を提供させることは許されない。それは,近代法の大原則であ」るにも関わらず,「現実には,労働契約なしに他人を指揮命令し就労させている事例が存在する」ことから,これを規制する法的対応として,「労務提供の実態から当事者の契約締結意思を客観的に推認し,当事者間に黙示の労働契約の成立を認めることにより,労務提供者を労働者として保護し,指揮命令を下して労務を受領している者に使用者としての責任を負わせようとする理論的努力が積み重ねられてきた」のである。形式に着目した原判決の判断はその前提が誤っているのである。
 そして,どのような判断基準が導かれるべきかについて,意見書は,労働契約法6条にも規定されている労働契約の本質から,「黙示の労働契約は,指揮命令に従った労務提供とその対価としての賃金の支払についての,客観的に推認される黙示の意思の合致により成立すると考えてよい。したがって,黙示の労働契約の成否の判断において検討されるべき事実は,①指揮命令に従った労務提供の有無と,②労務提供に対する対価の支払(実質的な賃金支払関係)の有無である。そして,これらの事実が認められれば,特段の事情がない限り,黙示の意思の合致があったと推認することが相当である」としている。この実質判断こそ本件において検討されなければならないのである。
 なお,労働者派遣は,このような実質があるにも関わらず,派遣労働についての労働者の同意を含む適法な労働者派遣関係の形成を根拠に,例外的に黙示の労働契約のに成立を排除するものに過ぎない。したがって,契約の開始時にいわゆる偽装請負である本件事案については,労働者派遣法による例外は考慮する必要がないのである。

(2) 偽装請負事案での黙示の労働契約成立の具体的判断基準

 黙示の労働契約成立の判断基準のうち,①指揮命令に従った労務の提供については,原判決も被控訴人パナソニックが行っていたことを認めており,本件の証拠関係からも明白である。
 では,労務提供に対する対価の支払(実質的な賃金支払関係)はどう判断すべきか。
 この点,意見書では,偽装請負事案は「三者関係が請負業者と発注元企業の脱法の意図によって創り出されたものであることに留意する必要がある」とし,偽装請負事案の場合,「発注元企業は,・・・労働者を指揮命令して就労させることが許されないことを認識している。賃金の支払については,請負を偽装していなければ,(・・・)労働者に賃金を支払わなければならないことを承知しており,請負業者に支払う「請負代金」が労務提供の対価であることを自覚し,さらに,労働者にはその一部が控除されて賃金として支払われることを認識している」ことから,「『労務提供の対価として請負業者に金員を支払う意思』が発注元企業に認められれば,労働者に対して賃金を支払う意思があると認定すべきである。」とする。
 また,請負業者による労務管理や賃金支払については,「偽装請負を行っている請負業者は,当然のことながら,偽装が明らかにならないように,雇用主らしい装いをこらす。・・・しかし,いかに粉飾を凝らそうとも,請負業者による賃金の支払は,労働基準法第6条が禁止する中間搾取に他ならない(・・・)。したがって,請負業者が金員を支払っていることを理由に,請負業者の使用者性を認め,発注元企業と労働者間の賃金の支払についての黙示の意思の合致を否定することは誤りである。」とする。
 このように,偽装請負事案においては,「発注元企業の側に『労働者を自ら直接指揮命令してその労務の提供を受け,その対価として請負業者に金員を支払う意思』が,労働者の側に『発注元企業の指揮命令の下に労務を提供し,その対価として賃金を受けとる意思』が,それぞれ客観的事実から推認されるならば,両者の間に黙示の労働契約の成立を認めることができるのであり,請負業者による労務管理や「賃金」の支払は,黙示の労働契約の成立を否定する判断要素とされてはならないのである。」
 控訴人も同意見である。原判決の判断は,偽装請負事案であることを踏まえての判断になっていない点でもその誤りが明らかである。

(3) 本件における黙示の労働契約の成否

 本件の事実関係については控訴理由書においても詳述しているとおりであり,松下PDP最高裁判決が当該事案について示した採用への関与,実質的な賃金決定への関与などの事実についても存在することが明らかになっている。
 また,被控訴人らが違法な偽装請負を行う認識を有していたことは原判決も認めるところである。
 このような事実関係のもとでは,前記判断基準に従えば,控訴人と被控訴人パナソニックとの間に黙示の労働契約の成立が認められることは明らかというべきである。

3 労働者派遣法40条の4による雇用契約申込み義務が履行されない場合の労働契約の成立

(1) 労働者派遣法40条の4と労働契約の成否

 原判決は,労働者派遣法40条の4は間接的な方法で労働契約締結の申込み(意思表示)を促す制度を採用したに留まるとしている。しかし,この解釈から直ちに労働契約の成立を認めないという原判決の判断は,労働者派遣法の趣旨及び裁判所の紛争解決機能を全く無視する暴論というべきである。
 この点,意見書では,仮に同法40条の4の規定がそのようなものであったとしても,「当事者の意思解釈を通じて,派遣先と派遣労働者の間に労働契約の成立を認めることが一切否定されるわけではない」とし,「法律に規定する行政機関による実効性確保措置が効果を発揮せずに,問題が深刻化する」場合には,「法の趣旨・目的に照らして,また,関係者の利害状況に即して,公正・衡平に問題を解決することは,裁判所に託された,裁判所固有の重要な機能である」と指摘する。そして,それは立法者の意思でもある。
 その上で,同条項違反の状態は,派遣先が「法的根拠なしに派遣労働者に指揮命令を下して就労させ」ている状態であり,このような場合,「派遣先については,『派遣労働者を自ら直接指揮命令してその労務の提供を受け,その対価として派遣元事業主に金員を支払う意思』が客観的事実から推認されれば,派遣労働者との間で労働契約締結の意思があると判断してよく」,派遣元を経由しての賃金支払いも,派遣元が間に入って利益を得ること自体が中間搾取として禁止される行為であるから,これを理由に「派遣先と派遣労働者との間の賃金の支払についての意思の合致を否定すべきではない」とする。
 「一方,派遣労働者については,『派遣先の指揮命令の下に労務を提供し,その対価として賃金を受け取る意思』が推認されれば,労働契約締結の意思を認定することができる。そして,その意思は,派遣先での就労を継続しているという事実から推認できるのである。」。
 このような観点に従えば,同条項違反の状態は,派遣先と労働者との直接の契約関係を推認すべき状態というべきであり,かつ,それが法の趣旨・目的に沿って公平公正に問題を解決する裁判所の機能に適合する解釈であるということができる。
 なお,本件は偽装請負事案ではあるが,労働者派遣法40条の4は,意見書も述べるとおり,本事案にも類推適用されるべきである。

(2) 本件における労働契約の成否

 以上からすれば,本件のように,違法な偽装請負を行うことにより,労働者派遣法の規制を免れようしていた被控訴人らに対しては 労働者派遣法40条の4の規定が類推適用されるというべきであり,被控訴人パナソニックは同条項の申込み義務を負うことを認識しつつその義務に違反していたのであるから,前記の推認により,「少なくとも,派遣可能期間を超えた時点で」,控訴人と被控訴人パナソニックとの黙示の労働契約の成立が認められるべきである。

(3) 松下PDP事件最高裁判決との関係

 なお,意見書の見解は,松下PDP事件最高裁判決とは立場を異にする点があるが,上記に述べた事柄に関しては,何ら同判決と矛盾する点はない。「最高裁判決も,偽装請負における『注文者』と労働者との間での黙示の労働契約の成立を一般的に否定しようとするものではな」く,「事案の具体的事実関係を重視して,総合的に判断する,というのが最高裁判決の立場」だからである。

4 不法行為の成立について(控訴人の予備的主張について)

(1) 労働者派遣法が取締法規であるという理由で不法行為の成立が否定できるわけではないこと。

 意見書では,控訴人の予備的主張(被控訴人パナソニックとの労働契約が認められない場合の不法行為の成立)に関しても述べられている。
 すなわち,意見書では,偽装請負にも労働者派遣法の規制が類推適用されること,違法な労働者派遣は労働基準法6条の定める「法律に基づいて許される場合」にあたらず,派遣元の利得は中間搾取として禁止されることを指摘して,偽装請負関係が,違法な就労関係であり,これによって労働者が極めて不安定な地位に置かれる一方,派遣先・派遣元が不法な利益を得ていることを明らかにしている。
 その上で,原判決が不法行為の成立を否定する論拠とした「労働者派遣法は取締法規である」という理由に対して次のように批判する。すなわち,「労働者派遣法は,確かに,指導,助言,勧告等の行政機関の権限を定めた規定を含んでおり,その点からすれば,取締法規としての側面を有している。しかし,他方,同法は「派遣労働者の就業に関する条件の整備等を図り,もつて派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的と」している(1条)。また,度重なる改正では,事業規制の緩和が進められた一方で,派遣労働者の保護の強化が常に改正の眼目に掲げられ,その方向での規定の整備が徐々に進められてきている。こうした点からすれば,労働者派遣法は,労働者保護法としての側面も有しているのである。」。また,取締法規に属するものであっても,「当該条項が設けられた経緯,立法趣旨,当該条項が実現を目指す法状態などを具体的に考慮することにより,当該条項が私法上の義務を定めている(派遣労働者の権利を認めている)と解すべき場合も当然ありうる」とも指摘している。
 これらの点は,既に,控訴理由書その他の書面でも詳述しているところであり,原判決の論拠とするところは,他の取締法規と解されている諸法規の解釈とも整合性がなく,多くの学説・裁判例にも反していると言わなければらならない。また,不法行為の成立には法的に保護されるべき利益の侵害で足りることからすれば,より一層,原判決の判断は誤っているといわなければならない。

(2) 労働者派遣法40条の4の申込みをしなかったことによる控訴人の権利・利益の侵害について

 控訴人の不法行為に関する主張は,控訴理由書その他の書面で既に述べたとおりであるが,意見書ではそのうちの一つである労働者派遣法40条の4の申込みをしなかったことによる控訴人の権利・利益の侵害について言及している。
 そして,同条項は,「派遣可能期間を超える派遣労働の受入れ禁止の実効性を確保し,かつ,派遣労働者の雇用の安定を目的として設けられた規定」であることからして,「派遣先は,公法上の義務を負うのみならず,継続して使用しようとする派遣労働者に対しても,申込み義務を負うと解すべきである」と結論づけている。そう解しなければ,労働者派遣法が義務の履行を徹底させる制度を設けているにもかかわらず,「派遣労働者からの義務の履行請求を認めない解釈は,法体系に矛盾を持ち込み,また,現実を変えようとする立法者の政策的意思を軽視するものであり,適切でない」からである。また,そう考えなければ,「派遣先が是正しない限り,違法状態は継続することになり,結果的に,違法行為を容認し,放置することになってしまう」からである。
 意見書は,この観点から,原判決がいうような「派遣先はこの雇用契約の申込みをするか否かを自由に選択できる」という事態を法律は想定しておらずはあり得ない解釈であり,また申込みにかかる契約の内容も派遣先の自由でよいはずはなく,期間の定めのない他の正規労働者との差別がない範囲に自ずと限定されるとする。この解釈は労働者派遣法40条の4による労働契約の成立に関しての控訴人の主張と趣旨が同じである。
 ただ,ここで問題にしているのは不法行為の成否であり,仮に同条項による履行請求が認められないとしても,被控訴人パナソニックが義務を履行していれば控訴人は前記のような直接雇用が実現していたのであって,その控訴人の被控訴人パナソニックの義務履行に対する期待は法的保護に値するとみるべきであろう。
 原判決が,不法行為の成立も認めないのは明らかに誤りなのである。

5 おわりに

 原判決の事実認定がその就労の実態をみない誤ったものであることは既に控訴理由書その他の書面で述べたとおりであるが,原判決は労働法の解釈としても大きく誤っており,それゆえ誤った結論を導いている。
 法の趣旨・目的に沿った,また,紛争解決機関としての司法の役割に沿った判断が求められる。         

以上

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック