パナソニック若狭工場事件、控訴審・準備書面(3)

平成23年(ネ)第259号 地位確認等請求控訴事件
控訴人   河本猛
被控訴人  パナソニック㈱ 外

控訴人 準備書面(3)

2012年11月26日
名古屋高等裁判所金沢支部民事部 御中

控訴人訴訟代理人

弁護士 海道宏実
同    吉川健司
同    村田浩治
同    河村学

 証拠調べの結果を踏まえて,控訴人は以下のとおり主張する。なお,控訴人の主張は,控訴理由書や控訴人準備書面(1)(2)で述べたとおりであり,特に強調したい点を絞って簡潔に指摘することとする。

第1 はじめに

 本件は,雇用関係の解消にあたって,控訴人の就労関係について,被控訴人らが控訴人の雇用の安定をはかるために,いかなる責任を負うのかが問われている。
 控訴審においては,控訴人と被控訴人パナソニックとの明示的な直接雇用の事実及びその経緯について主に補足したものであるが,そもそも,本件は,控訴人が従事していた業務は継続しており,かつ,控訴人はその就労を希望しているにもかかわらず,被控訴人らは違法な労働者派遣関係の形式を利用して契約を解除したという事案である。
 すなわち,控訴人は,ただ適法な雇用関係とその継続を求めて福井労働局に対して違法行為の是正を求める申告を行ったにだけであるのに,被控訴人らは,違法な派遣関係を利用して契約を打ち切り,控訴人を職場から排除したのである。
 事実はこのようなものであるのに,原判決は,控訴人と被控訴人らの就労関係が,長年にわたって労働者派遣関係にあり,その就労は違法であったことを認定しながら,被控訴人パナソニックとの間の雇用契約関係を否定するのみで被控訴人らの控訴人に対する責任は全く認めないという判断を行った。労働者派遣法違反があっても,それは行政取締法規に過ぎず,その違反は何ら私法上の契約関係に効力を及ぼすものではないとしたのである。
 しかし,そもそも労働者派遣法及びその関係法令は,一面,労働者派遣事業の適正化を図るいわゆる事業者の取締法としての性格を有し,違反事業者に対し罰則等の制裁を課すことによりその遵守を要求することで派遣労働者の保護を図ると同時に,他面,憲法13条,25条1項及び27条1項等の規定を受け,派遣労働者の生命・身体の安全及び健康等を確保及び雇用の安定を図るため,労働基準法,労働契約法及び民法などとともに派遣労働契約の当事者である派遣労働者の直接の保護をを目的としている。
 つまり労働者派遣法は,行政取締法規として,一方では公法的側面を有し,他方では,派遣労働者と派遣元事業主,派遣先との契約関係という私法的側面に規制を加えるものというべきである。したがって,法令違反行為を無効とすることが規制目的にかない,法令違反の被害をうけた当事者間の信義・公平を実現することにもなる場合は,私法上の効力も及ぶとするべきである。
 そもそも,個人の権利・生活の保護が公法の目的となっている場合に,私法に何ら影響を与えないという解釈は,公法の目的達成を裁判所が妨げることを意味し,それは労働者派遣法についていえば立法者意思にも反しているといえる。裁判所が,公法上禁止されることを私法上は容認するということは法体系内の矛盾をもたらし,またその解釈により個人の権利・生活が脅かされることになるのである。
 原判決は,被控訴人らが長年にわたって控訴人らを含む労働者に対して違法な就労形態においてきたことを認定した。こうした法秩序に違反する行為の是正にあたって,だれがその責任を負うべきなのかという点について,何らかの裁判規範としての判断を示さなければならなかったはずである。
 とりわけ,控訴審において強調した,違法な派遣関係を利用した契約解除と,契約解除についての被控訴人らの報復的意図の存在という事情を踏まえれば,本件において労働者派遣法違反を認定しながら,被控訴人らに対して何らの責任を問わないことの不当性がより一層明らかとなったといえる。
 控訴審裁判所においては,改めて被控訴人らがどのような違反行為を行い,それが法目的にかなわぬものであることを踏まえて,原判決の誤りを正すよう求める次第である。

第2 控訴人と被控訴人パナソニックとの黙示の労働契約の成立

 1 被控訴人パナソニックによる控訴人採用行為への関与

(1)●●証人不出頭の評価

 被控訴人パナソニックが控訴人を採用する行為に関与していたことを立証するために控訴人が申請し,採用された被控訴人ケイテムの現場責任者であった●●証人は,原審に続いてまたしても出頭しなかった。控訴人としては,真実を明らかにするために堂々と証人申請をし,法廷において事実を明らかにしようと最大限の努力を尽くしてきた。他方,まさに控訴人を採用した張本人たる被控訴人ケイテムは,容易に主張立証を行うことができる立場になりながら,被控訴人パナソニックとともに現在に至るまで一貫して控訴人の主張を否認するのみで,何ら積極的な立証を行ってこなかった。この間の頑なな●●証人の対応からすれば,被控訴人ケイテムによる同人に対する何らかの働きかけがあったと疑われてもやむをえないであろう。弁論の全趣旨として十分考慮されるべきである。

(2)控訴人供述の信用性

 控訴人が被控訴人パナソニックの採用への関与を主張するに至った経緯は控訴理由書で述べたとおりであり(p7,8),何ら不自然なところはなく「控訴人の主張の経緯に照らして信用できない」(p24)との原判決判示は明白に誤っており,詳細かつ具体的で真摯に供述した控訴人の原審供述内容は十分信用できる。

 2 被控訴人パナソニックによる指揮命令と労務管理

(1)業務日誌(甲45)

 控訴人は,控訴審において新たに業務日誌を書証として提出した。
 この業務日誌により立証できる内容は,既に控訴人準備書面(1)で述べたとおりであり(p3,4),被控訴人ケイテムが控訴人を含む派遣労働者の休む理由を把握せず,控訴人を含む派遣労働者が休む場合に派遣元である被控訴人ケイテムには何ら連絡していなかったのであるから,この点からも被控訴人ケイテムが基本的な事項についてすら勤務管理をしていなかったことが認められる。

(2)●●証人からの聴取内容

 控訴人は,●●証人と面談し聴取した内容を具体的に供述した(p18,19)。
 これによれば,控訴人を含む派遣労働者の現場責任者であった●●証人自身,タイムカードで出勤確認をしていないこと,タイムカードは被控訴人ケイテムにすら送らず被控訴人パナソニックの事務所で保管していたこと等具体的事実を認めたのであり,自ら体験した者でなければ知り得ない事実が含まれる●●証人の話した内容は信用性が高く,被控訴人パナソニックが自ら管理する勤務管理表で控訴人を含む派遣労働者の労働時間を管理していたこと,被控訴人ケイテムは労働時間管理を行っていなかったことが認められる。
 控訴理由書でも指摘した(p14,15)が,「被控訴人PEDJが被控訴人ケイテムの労働者の出退勤状況を確認していたに過ぎず」「被控訴人ケイテムの現場責任者が被控訴人ケイテムの労働者の出退勤状況を確認・管理していた」(p25,26)との原判決判示は誤りである。

(3)証拠無視,経験則違反の事実認定と判断回避の原判決

 原判決が,原審で提出された証拠を無視し,経験則違反の事実認定を行い,控訴人主張に対する判断を回避していること等は,既に控訴理由書で具体的に主張したとおりである(p12ないし17)。
 控訴審判決においては,是非とも是正されたい。

 3 被控訴人による賃金決定への関与

(1)業務日誌(甲45)

 控訴人が控訴審において新たに書証として提出した業務日誌によれば,控訴人準備書面(1)で既に述べたとおり,被控訴人ケイテムは派遣先被控訴人パナソニックの都合による休みであっても全く保証がなされず,そのまま派遣労働者にはその間賃金が支払われていなかったことが窺われるのであるから,この点からも被控訴人パナソニックが賃金決定に関与していたことが認められる。

(2)●●証人からの聴取内容

 ●●証人と面談し聴取した内容を具体的に述べた控訴人供述(p18,19)によれば,被控訴人ケイテムは賃金表を作っていなかったこと,タイムカードに従って賃金を決定していなかったことを具体的に認めたのであり,2(2)と同様に信用性が高く,この点からも被控訴人パナソニックが賃金決定に関与していたことが認められる。

(3)証拠無視,判断回避の原判決

 原判決が,原審で提出された証拠を無視し,控訴人主張に対する判断を回避していること等は,既に控訴理由書で具体的に主張したとおりである(p17ないし20)。
 控訴審判決においては,是非とも是正されたい。

 4 黙示の労働契約論

 いわゆる黙示の労働契約論については,その判断基準,松下PDP事件最高裁判決のとらえかたと原判決の判断逸脱,取締法規違反による私法上の効力,本件のあてはめ等,既に控訴理由書(p26ないし33)や控訴人準備書面(1)(p6ないし24)で主張したとおりであり,あえて繰り返さないが十分検討されなければならない。
 とりわけ,控訴人らがいわゆる偽装請負であること,すなわち労働者派遣法違反を承知していたことは原判決も認めるところであり(p32),被控訴人らが法規制を故意に無視して,脱法目的で労働者派遣という形式を利用してきた実態があるという本件事案の特徴を黙示の労働契約の成立の法解釈にあたって十分検討すべきである。また,松下PDP最高裁判決の判示を前提にしても,少なくとも「特段の事情」に該当する事案にあたるというべきである。
 なお,控訴人は,第6の1で述べるように,今週中には中島教授作成の意見書により,さらに理論面からの主張・立証を補充することを予定している。

 5 被控訴人による主張の信義則違反・禁反言原則違反

 この点も既に控訴理由書で指摘したとおりであり(p33,34),自ら悪質な違法行為を意図的に行ってきた被控訴人らが請負契約ないし労働者派遣契約の有効性や控訴人と被控訴人パナソニックとの間の黙示の労働契約の不成立を主張することは,信義則ないし禁反言原則違反から許されない。
 仮にそれ以前の控訴人主張を認めないのであれば,この主張に対する判断も,控訴審判決においてはなされたい。

第3 控訴人と被控訴人パナソニックとの労働者派遣法40条の4による労働契約の成立

 原判決が労働者派遣法の解釈を誤っていること,控訴人主張を正確に理解していないことについて控訴理由書で指摘したとおりである(p34,35)。
 なお,控訴人は,第6の1で述べるように,今週中には中島教授作成の意見書により,さらに理論面からの主張・立証を補充することを予定している。

第4 控訴人と被控訴人パナソニックとの労働契約の成立(予備的主張)

1 控訴人本人尋問の結果

(1)はじめに

 前記のとおり本件においては,黙示の労働契約が成立している。
 しかし,仮に黙示の労働契約の成立が認められないとしても,控訴人と被控訴人との間において,2009(平成21)年1月22日ころに,明示の労働契約が成立している。
 以下,控訴人本人尋問結果から,明示の労働契約が成立することを明らかにする。(2)控訴人本人尋問から認められる事実

 ア もともと,控訴人を含めた「社外工」と被控訴人パナソニックの正社員との間には,仕事を遂行する上ではほとんど差はなかった。
 また,正社員も社外工も,業務に従事している間は,常に名前で呼ばれて業務に関する指示を受けており,控訴人も被控訴人パナソニックの正社員から「河本」という名前で呼ばれて,業務に関する指示を受けていたため,普段の業務において,正社員と社外工(業務請負労働者ないし派遣労働者)との間に差があるという意識をもつことはなかった(供述p2,3)。

 イ ところが,2008(平成20)年10月24日,被控訴人ケイテムから,被控訴人パナソニックにおける派遣労働者の人員削減が発表された(同p2)。これによって,控訴人は,初めて,被控訴人パナソニックから「解雇」され,今後,同社の工場で働くことができなくなることを知らされた(同p3)。さらに,同年11月5日には,朝会において,パナソニック社員●●から,派遣労働者との契約は更新しないと告げられた(同p4)。
 これにより,控訴人は,被控訴人パナソニックが,派遣労働者を対象に人員削減を確実に実行しようとしていることを認識し(同p4),控訴人自身も,このまま何もしなければ,被控訴人パナソニックにおいて働き続けることが出来なくなると思うようになった。
 なお,控訴人は,2008(平成20)年12月1日,被控訴人ケイテムの●●を通じて,被控訴人パナソニックから,社外工の中で,最後まで残ることの出来る人物であると伝えられていた(同p4)。この事実は,控訴人が極めて優秀な労働者であったことを示すと同時に,被控訴人パナソニックの前記人員削減は,優秀な労働者であっても,社外工というだけの理由で人員削減の対象とするという,極めて乱暴なものであったことを示している。

 ウ 控訴人は,前記の被控訴人パナソニックの人員削減のやり方に納得できず,福井労働局に電話をし,被控訴人パナソニックが偽装請負をしていたことを伝えて調査を依頼した。また,地域労組つるがという地域の労働組合にも相談し,11月22日には,地域労組つるがに加入した(同p3,4)。

 エ 2009(平成21)年1月16日,被控訴人パナソニックの工場において,被控訴人パナソニックは,控訴人ら社外工に対し,①時給810円のアルバイト,②被控訴人パナソニックが100%出資する業務請負会社パナソニックエクセルプロダクツへの移籍,③被控訴人日本ケイテムへの残留,という3つの選択肢を示した説明会が行われた。但し,①時給810円のアルバイトについては,プロジェクターで画面に映しながら口頭で説明するだけであり,その他の②,③についても,被控訴人パナソニックの工場内の別室に移動して,同じくプロジェクターで画面に映して口頭で説明するだけであった(同p5)。
 この時,3つの選択肢に対する回答は,1月23日までにするようにという説明はあったが,契約の締結を希望する場合はその意思表示を行うように,労働契約の申し込みを行うように,という説明はされておらず,1月23日までに回答しない場合にどうなるかについての説明もなかった(同p5,6,19)。

 オ 控訴人は,上記説明会で示された3つの選択肢にどのように対応するかについて,地域労組つるがに相談した。そして,相談の結果,時給810円という条件になると,従来と同じ時間働いたとしても,控訴人が正社員と一緒に社外工として働いていた時期に受け取っていた賃金と比べて大幅に賃金が下がるため,受け入れがたい条件である,しかし,だからといって,被控訴人パナソニックによる直接雇用を選択しないのではなく,直接雇用を選択して,控訴人が従来どおり職場で働き続けながら,時給810円という労働条件については,団体交渉で値上げを求めることにする,そして,直接雇用を選択するにあたっては,時給810円という労働条件等については団体交渉での改善を求めていくことを留保する,という方針を決めた(同p6)。
 前記相談の結果を受けて,控訴人は,同月22日,被控訴人ケイテムの●●に,時給810円のアルバイトを選択すること,しかし,今後団体交渉を申し込んで,控訴人の正社員化を求める予定であるので,被控訴人パナソニックにその旨を伝えるよう求めた(同p7)。
 これに対し,●●は,被控訴人パナソニックに伝えておくと返答した(同p8)。実際,同年3月4日に行われた,地域労組つるがと被控訴人パナソニックとの間の「話し合い」において,被控訴人パナソニックの●●は,控訴人が被控訴人パナソニックによる直接雇用を選んだことは,●●から聞いていると答えており(同p13),●●は,被控訴人パナソニックに対し,控訴人が直接雇用を選択したことを伝えていた。
 それゆえ,同年1月23日までの間に,被控訴人パナソニックも,控訴人が直接雇用を選択したことを認識していた。

 カ 控訴人は,同年1月29日,地域労組つるがを通じて,被控訴人パナソニックに対し,団体交渉を申し入れた。この時,控訴人は,確かに前記の時給810円のアルバイトを選択したものの,引き続き,正社員としての雇用を求めるという趣旨で,要求書(甲10)第1項に,正社員として雇用することを求める項目を記載した(同p8)。
 ところが,被控訴人パナソニックは,前記のとおり,控訴人が時給810円のアルバイトを選択したことを認識しながら,雇用関係がないという理由で団体交渉を拒否した(同p8,9)。
 その上,同年2月2日には,被控訴人パナソニックの●●が,●●を通じて,控訴人に対し,休業を命令してきた(同p9)。このため,控訴人は,同日以降,被控訴人パナソニックの工場で働くことができなくなった。
 その後,控訴人は同年2月20日にも,被控訴人パナソニックに対し,団体交渉を申し入れ,前回1月29日の団体交渉申入と同じく,正社員としての雇用を求めて,要求書(甲12)を提出した。また,同時に,時給810円のアルバイトの労働条件の詳細が不明確であるため,詳細を明らかにすることも求めた(同p10)。
 ところが,この時も,被控訴人パナソニックは,雇用関係がないという理由で団体交渉を拒否した(同p11)。

 キ その後,被控訴人パナソニックは,控訴人と地域労組つるがに対し,「話し合い」の場を持ちたいと伝えてきた。
 その結果,同年3月4日,控訴人と地域労組つるがにとっては団体交渉という位置づけであるが,控訴人,地域労組つるがの●●,県労連議長の●●,被控訴人パナソニックの,●●人事部長,●●,●●が出席して,「話し合い」が行われた。
 被控訴人パナソニック側は,時給810円のアルバイトについて説明した後,控訴人に対し,今からでもパナソニックエクセルプロダクツに移籍すれば,控訴人の賃金は従来どおりの金額が維持されると述べた(同p12)。このように,被控訴人パナソニックが,パナソニックエクセルプロダクツに移籍する選択肢がその時点でも有効であるという話をした理由は,控訴人に対して時給810円のアルバイトという選択肢と賃金額を維持した上でのパナソニックエクセルプロダクツへの移籍という選択肢を並べて提示したことと併せて考えると,福井労働局の是正指導があるため,控訴人に対して直接雇用を申し込まなければならないものの,控訴人の直接雇用を何とかして避けたい,それゆえ,控訴人が,パナソニックエクセルプロダクツへの移籍を選択するよう誘導しよう,という考えに基づくものである。
 これに対し,控訴人らは,既に被控訴人パナソニックによる直接雇用を選択していることを前提に,被控訴人パナソニック側に対し,就業規則や時給810円のアルバイトの契約書を出すよう求めた。
 被控訴人パナソニック側は,当初は,内部文書である等の理由を述べて,就業規則や契約書は出せない等と述べたが,最後は検討すると述べた(同p13)。
 しかし,その後,被控訴人パナソニックが,控訴人に契約書や就業規則を渡すことはなかった。
 また,同日の「話し合い」の場で,被控訴人パナソニックの●●は,控訴人が直接雇用を選択したことを●●から聞いていると認めていた(同p13)。

 ク 以上の事実は,控訴人本人尋問において控訴人が供述したことであり,その内容は極めて具体的かつ詳細であり,客観的証拠とも合致しており,体験した者だからこそ話すことができる内容を含んでいる。また,被控訴人らの反対尋問によっても,控訴人の供述は一貫しており,何ら崩れなかった。それゆえ,控訴人の供述内容の信用性は極めて高い。
 よって,控訴人本人尋問により,上記の事実が存在したことが十分に認められる。

(3)控訴人と被控訴人パナソニックとの間に明示の労働契約が成立していること

 以上に述べた事実から,①被控訴人パナソニックが2009(平成21)年1月16日に,控訴人に対して,時給810円のアルバイトという条件で労働契約を申し込んだこと②これに対して,控訴人が同月22日,賃金等の労働条件の改善を求め続けるという意味で今後の労働条件については異議を留保しつつ,被控訴人パナソニックからの直接雇用の申込みを承諾したこと③その後,控訴人による異議を留めた承諾の意思表示が被控訴人ケイテムを通じて被控訴人パナソニックに到達したこと④同年3月4日に,被控訴人パナソニックも,控訴人が異議を留めて直接雇用の申込みを承諾したことを聞いていると自認していたこと,が認められる。
 したがって,2009(平成21)年1月22日ころ,控訴人と被控訴人パナソニックとの間では,時給810円のアルバイトという内容の労働契約が成立していたと認められる。
 この事実は,その後,控訴人が,地域労組つるがという労働組合に加入して,被控訴人パナソニックに対し,労働契約があることを前提として,繰り返し団体交渉を求めたこと,団体交渉の要求項目も,一貫して,控訴人の労働条件の改善,正社員としての雇用を求めるというものであったこと,被控訴人パナソニックとの間の契約書,就業規則の提出を求めたこと,等の行動をしたことからも裏付けられる。なぜなら,控訴人が,被控訴人ケイテムの派遣労働者という認識であったのであれば,上記のような行動をとることはあり得ないからである。
 さらに,控訴人の代理人もまた,当時,被控訴人パナソニック代理人に対し,電話や書面(乙A10)により,被控訴人パナソニックとの直接雇用の成立を前提にした通知をしていたのである。

2 被控訴人主張への反論

(1)賃金額・雇用期間の合意

 被控訴人パナソニックは,賃金額は労働契約成立のための本質的要素であり,雇用期間の確定的合意も労働契約の成立に必要であると主張する。
 これに対する反論は,労働契約法6条の解釈等を踏まえて既に控訴人準備書面(2)で述べたとおりであり(p24,25),さらに賃金の確定額等の労働条件の内容が合意に至っていなくとも労働契約の成立は妨げられないと判示する東京高裁判決(甲47)も書証として提出済みである。

(2)労働契約締結の打診

 次に,被控訴人パナソニックは,1月16日の説明会は労働契約締結の打診を行ったに過ぎないとも主張する。
 しかし,これに対する反論も,説明会の場における説明事実,当時被控訴人パナソニックが置かれていた実情,説明会後の行動からして成り立たないことを既に控訴人準備書面(2)で述べたとおりであり(p27,28),控訴人も,説明会の場で「PEDJの担当者の人からあなたに対して,ケイテムを通じて労働契約の申込みを行うように,そういう言われ方をした記憶はありますか」との質問に対し「いや,ないですね」と明確に否定している(控訴人供述p19)。

(3)控訴人の自白

 さらに,被控訴人パナソニックは,原審における準備書面の記載を引用したり,控訴人を支援する会作成のHP上の記事をいくつか引用して,控訴人は自ら被控訴人パナソニックとの間に労働契約が成立していないことを認めており「自白」していると主張する。
 しかし,原審では予備的主張をしておらず,直接雇用を正社員としての直接雇用という意味で使用していたことをあえて曲解している等既に控訴人準備書面(2)で反論したとおりであり(p28),控訴人に対する反対尋問結果を踏まえても何ら被控訴人パナソニックによる主張は成り立たない。被控訴人パナソニックによる主張は,控訴人代理人から被控訴人パナソニック代理人に宛てた2009(平成21)年3月31日付け書面(乙A10)中の「当方本人は貴社との雇用関係の確認を求めて訴訟を提起しているものですが,当面は貴社からの条件に対し異議を留めたうえで,就労する意思があることを改めて申し入れます」との文言からしても,成り立たないことは明白である。

第5 被控訴人らの不法行為責任

 1 被控訴人らの不法行為責任

 原判決が被控訴人らによる不法行為責任を否定した誤りに対する控訴人らの主張は,既に控訴理由書p38ないし51や控訴人準備書面(2)p28ないし34で述べたとおりである。
 なお,控訴人は,第6の1で述べるように,今週中には中島教授作成の意見書により,さらに理論面からの主張・立証を補充することを予定している。
 以下,特に強調したい点を控訴人本人尋問結果を踏まえて主張を補充する。

 2 労働者の適正利用要求に対する報復,直接雇用承諾の無視,不当労働行為,労務提供の内容や地位

(1)控訴人本人尋問結果や書証から,第5の3(2)(3)で後述するような事実が認められる。

 他の派遣切り裁判事例と比較して,本件は,以下のような特徴を有している。

(2)労働者の適正利用要求に対する報復

 控訴人は,被控訴人パナソニックでの雇用継続を希望し,自ら勇気を持って労働局へ労働者派遣法違反を求める申告をし,その結果是正指導がなされた。その後,被控訴人パナソニックは,控訴人に対する報復目的で控訴人らに対し,事実上誰も応じられないような労働条件を提示して直接雇用を選択させないように仕向けることで,控訴人の希望する直接雇用を排除しようとしたという経緯が認められる。
 雇用期間満了後ないし中途解約後に労働局へ申告した事案,労働局へ事後にも申告しなかった事案とは全く異なる。

(3)直接雇用承諾の無視

 控訴人は,異議を留めながらも,被控訴人パナソニックからの直接雇用の申込みを承諾し,その承諾の意思表示は被控訴人パナソニックにも到達し,認識していた。にもかかわらず,被控訴人パナソニックは,これを無視して加入する労働組合からの団体交渉を無視したばかりか,休業命令を発して強制的に職場での就労からも排除し続けた。
 派遣先から直接雇用の申込みすらなく排除されていった事案とは全く異なる。

(4)不当労働行為

 被控訴人パナソニックは,控訴人が加入する労働組合からの団体交渉申し入れを一貫して拒否し続けた。その結果,控訴人は,派遣先からも派遣元からも排除されてしまった。
 派遣労働者の地位を失ってから団体交渉を求めた事案,団体交渉すら求めなかった事案とは全く異なる。

(5)控訴人の労務提供内容や地位

 控訴人は,被控訴人パナソニックの正社員と同等ないしそれ以上の労務提供を長年続けてきたのであり,その能力を評価され,派遣労働者の中でもサブリーダー候補として養成される等期待され,控訴人もまたその期待に応えようと努力し,そのような期待をしていた。
 単純労務を提供し同僚の派遣労働者と似たような労務提供を行ったり地位にあった事案とは全く異なる。

(6)一連の行為による不法行為の成立

 以上指摘した本件事案の特徴を踏まえれば,控訴人が被控訴人らから受けた一連の行為により最終的に職場を奪われ排除されていった点に不法行為が成立することは明らかである。

 3 信義則違反

(1)派遣先が派遣労働者に対して信義則上の義務を負うこと

 労働者派遣においては,派遣元が雇用主として派遣労働者に対して雇用契約上の責任を負うものであり,派遣先においては派遣労働者に対して契約上の責任を負うものではない。しかし,派遣労働者を受け入れ,就労させる場合,労働者派遣法上の規制を遵守するとともに,その指揮命令のもとに労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて,派遣労働者に対し,信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務があり,ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位におかれている派遣労働者に対し,その勤労生活を脅かすような信義にもとる行為が認められるときには,不法行為責任を負うと解される(パナソニックエコシステムズ事件名古屋高裁平成24年2月10日判決・労働判例№1054p76)。そして,同判決は平成24年10月12日に確定した(甲48の1,2)。
 さらに,三菱電機事件(名古屋地裁平成23年11月2日判決・労働判例№1040p5),日本精工事件(東京地裁平成24年8月31日判決)等同旨の下級審判例も続いており,このような派遣先の不法行為責任に関する判断枠組は確立しつつあるといってよい。

(2)控訴人本人尋問結果から認められる信義則違反の事実

 ア 控訴人は,パナソニック社員●●から,請負化計画実施の際に,ハイサイクル成形班のサブリーダーになり,それまで被控訴人パナソニック正社員が担当していた金型切替業務を担当することを要請された(控訴人供述p1)。

 イ ところが,2008(平成20)年10月24日,被控訴人ケイテムから,被控訴人パナソニックにおける派遣労働者の人員削減が発表された(同p2)。これによって,控訴人は,突然,被控訴人パナソニックから「解雇」され,働くことができなくなることを知らされた(同p3)。
 そのため,控訴人は,福井労働局に電話をし,当時社会問題となっていた,派遣切り,偽装請負などの問題がないのか調査を求めた(同p3,4)。また,自らの雇用を守るため,地域労組つるがという地域の労働組合に相談して,11月22日には地域労組つるがに加入した(同p3,4)。

 ウ 以後の事実は,前記第4の1(2)エ以下と同じである。

(3)被控訴人パナソニックの行為が信義則に違反していること

 もともと,控訴人については,偽装請負から派遣に切り替えられ,派遣可能な受入期間を超過した後も,被控訴人パナソニックは控訴人に直接雇用を申し込まないままであった。このように,控訴人は,被控訴人パナソニックによって,違法な状況で働かされており,控訴人の雇用は極めて不安定なものであった。
 しかし,被控訴人パナソニックは,控訴人が同社の工場で働き始めた当初から,控訴人に対し,長期間,安定して働くことができるかのような虚偽を伝えていた(甲41p2,3)。さらに,請負化計画を遂行する際にも,控訴人に対してハイサイクル成形班のサブリーダーになることを要請するなど,長期間働き続けることを前提とした対応を繰り返していた。
 控訴人は,被控訴人パナソニックのそれらの言葉を信じて,同社の正社員以上に働いた。過労死基準を遙かに超える長時間の残業,突然の休日出勤等にも,一言も文句を言わずに従ってきたのである。
 ところが,2008(平成20)年10月24日,人員削減の発表により,控訴人は,長期間,安定して働き続けることができるという話が虚偽であり,今後,被控訴人パナソニックで働き続けることができないことを知らされた。
 このため,控訴人は,自らの雇用を守ろうと,福井労働局に申告して調査を求め,あるいは,労働組合に相談するなどした。
 その後,被控訴人パナソニックは,社外工を直接雇用することを避けるため,時給810円のアルバイトと,パナソニックの100%子会社である業務請負会社パナソニックエクセルプロダクツへの移籍による賃金の維持,という選択肢を提示し,社外工がパナソニックエクセルプロダクツに移籍するよう仕向けた。
 これに対し,控訴人は,被控訴人パナソニックで働き続けたいという気持ちから,時給810円のアルバイトを選択し,被控訴人パナソニックも,控訴人がその選択をしたことを伝えられ,認識した。
 ところが,被控訴人パナソニックは,控訴人が労働組合に加入して,2009(平成21)年1月29日に労働条件の改善を求めて団体交渉を申し入れるや,控訴人との間に労働契約が成立していることを否定して団体交渉を拒否するという,不当労働行為としか言いようのない対応をした。
 のみならず,被控訴人パナソニックは,同年2月2日には控訴人に休業を命令して,控訴人が工場で働くこともできないようにしたのである。
 その上,同年3月4日,控訴人が,契約書に署名するために契約書を提出するよう求めたにもかかわらず,当初は契約書を提出することさえも拒否し,その後も,結局,控訴人に契約書を渡さなかった。
 以上のとおり,被控訴人パナソニックは,控訴人を直接雇用したくないという考えから,時給810円のアルバイトという非常識な提案をした。これに対し,控訴人は,被控訴人パナソニックで働き続けたいという真摯な思いから,やむを得ず,労働条件の改善を求め続けることを留保しつつ,時給810円のアルバイトを選択し,その後,団体交渉を申し入れた。しかし,被控訴人パナソニックは,控訴人が時給810円のアルバイトを選択したことを認識しつつ,雇用関係がないなどと虚偽を述べて団体交渉を拒否し,さらに控訴人に休業を命令して,工場で働くこともできなくした。控訴人が,それでも団体交渉を求め続けると,パナソニックは,「話し合い」であれば応じると述べたものの,「話し合い」の席では,控訴人が求めた契約書の提出さえ拒否したのである。
 このように,控訴人としては,工場で働くことも出来ず,団体交渉も拒否され,契約書の提出さえ拒否されたため,他に手段がないということで,やむを得ず,裁判に訴えざるを得なかったのである。そして,提訴後の同年3月末日,被控訴人ケイテムとの労働契約期間も終了したとして,被控訴人ケイテムからも排除されたのである。
 被控訴人パナソニックの上記のような対応は,被控訴人パナソニック自らが同社の正社員以上に働かせ続け,その能力を買ってサブリーダーを要請していたほどの控訴人が,自らの権利を守るために行ったことに対し,一転して報復的に,控訴人の労働の場を奪い,控訴人との交渉さえも拒否するというものであって,控訴人の勤労生活を著しく脅かす,信義にもとる行為と言わざるを得ず,信義則違反として,不法行為に該当し,損害賠償義務を負う。また,被控訴人ケイテムも,被控訴人パナソニックのこのような行為に加担したものとして,損害賠償義務を負う。
 そして,控訴人が受けた仕打ちの悪質性,控訴人の被った経済的精神的不利益の深刻さ等を考慮し,その精神的苦痛を金額に評価すれば,少なくとも100万円を下らない。

第6 おわりに

 1 中島意見書による主張・立証

 本準備書面提出日までには間に合わなかったが,今週中に,京都府立大学の中島正雄教授による意見書を書証として提出する予定である。
 同意見書により,主に黙示の労働契約の成立や不法行為の成立の点について理論面からの主張・立証を予定している。

 2 派遣労働者のおかれた権利状態に対し期待される司法の役割

 控訴人準備書面(2)でも指摘したが,再度控訴人は強調して以下のとおり主張する。
 「原判決は,被控訴人らが労働者派遣法に違反する状態にあることを知りながら(原判決32頁),すなわち被控訴人らの違法性の認識を認定していながら,控訴人と被控訴人PEDJとの間の労働契約の成立を否定したばかりか,被控訴人らの不法行為責任まで否定したのである。これでは,労働者派遣法に違反した状態で働かせられた派遣労働者が全く救済されないまま放置される一方で,違法行為を認識していた(本件では脱法目的で意図的に行っていた)派遣先企業及び派遣元企業をすべて免罪させることになってしまう。いかに使用者が労働者派遣法違反を犯しても何らの責任を負うことなく労働者だけがまさに「物」扱いとして切り捨てられることを許してよいのか。このような不正義・不公平な結果を追認してよいのか。このような結果を許しては,繰り返される労働者派遣法違反は一向に是正されないどころか,やり得を許し,労働者派遣法を遵守する法遵守の意識を希薄化させ,法秩序の混乱を誘発するだけではないか。リーマンショック後のいわゆる派遣切りにより切実な社会問題として浮き彫りになった派遣労働者の劣悪かつ不安定な地位・権利状態に対し,一向に改善がすすまない社会情勢の下で,司法に期待される役割は極めて重大であり,控訴審ではまさにこの点が問われているといってよい。」(控訴理由書6,7頁)。
 現在においても依然として,派遣労働者等非正規労働者の劣悪かつ不安定な地位・権利状態は続いているどころか一層悪化しており,そのような中これを改善しようとする立法や施策がすすんでいない状況は何ら変わっていない。
 そして,正規労働者への道も派遣労働者の道も閉ざされた控訴人自身の生活は,意見陳述や控訴人尋問で述べたとおり苛酷な現状に置かれている。控訴人は,現在全くの無収入の状態におかれている一方で,請負会社を選択した同僚の派遣労働者は現在もなお被控訴人パナソニックで働く場を得ている(控訴人供述p17)。
 原判決を含めたこの間のいわゆる派遣切り事件裁判には,残念ながら多くの問題点が指摘されているところであり,萬井龍谷大学名誉教授は「訴えられた事案について『良心に従い独立してその職権を行』う,つまり自ら事実関係を丹念に検討し,判断するという憲法76条3項が定める裁判官本来の使命を忘れ去ったのではないか,と思われるほどである」と述べるほどである(甲46p37)。
 控訴審として,原審と同じく不正義・不公平な結果を追認する立場にたつのか,それとも本来の司法の果たすべき役割に立ち返ってこれを許さず是正する立場にたつのか,法と正義に基づいた判断が求められている。

以上

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