パナソニック若狭工場事件、控訴審・準備書面(2)前半

2011年(ネ)第259号 地位確認等請求控訴事件
控訴人  河本猛
被控訴人 パナソニック㈱ 外
控 訴 人 準 備 書 面 (2)                        
2012年5月23日
名古屋高等裁判所金沢支部 御中

控訴人訴訟代理人弁護士 海道宏実
同  吉川健司
同  村田浩治
同  河村学

答弁書に対し以下のとおり反論するとともに,控訴人の主張を以下補充する。

第1 控訴人が控訴審審理にあたって裁判所に重視していただきたい点

1 派遣労働者のおかれた権利状態に対し期待される司法の役割

   控訴理由書において,控訴人は以下の指摘をした。
  「原判決は,被控訴人らが労働者派遣法に違反する状態にあることを知りながら(原判決32頁),すなわち被控訴人らの違法性の認識を認定していながら,控訴人と被控訴人PEDJとの間の労働契約の成立を否定したばかりか,被控訴人らの不法行為責任まで否定したのである。これでは,労働者派遣法に違反した状態で働かせられた派遣労働者が全く救済されないまま放置される一方で,違法行為を認識していた(本件では脱法目的で意図的に行っていた)派遣先企業及び派遣元企業をすべて免罪させることになってしまう。いかに使用者が労働者派遣法違反を犯しても何らの責任を負うことなく労働者だけがまさに「物」扱いとして切り捨てられることを許してよいのか。このような不正義・不公平な結果を追認してよいのか。このような結果を許しては,繰り返される労働者派遣法違反は一向に是正されないどころか,やり得を許し,労働者派遣法を遵守する法遵守の意識を希薄化させ,法秩序の混乱を誘発するだけではないか。リーマンショック後のいわゆる派遣切りにより切実な社会問題として浮き彫りになった派遣労働者の劣悪かつ不安定な地位・権利状態に対し,一向に改善がすすまない社会情勢の下で,司法に期待される役割は極めて重大であり,控訴審ではまさにこの点が問われているといってよい。」(6,7頁)。
   現在においても依然として,派遣労働者等非正規労働者の劣悪かつ不安定な地位・権利状態は続いており,そのような中これを改善しようとする立法や施策がすすんでいない状況は何ら変わっていない。
   そして,正規労働者への道も派遣労働者の道も閉ざされた控訴人自身の生活は,意見陳述で述べたとおり苛酷な現状に置かれている。
   控訴審として,原審と同じく不正義・不公平な結果を追認する立場にたつのか,それとも本来の司法の果たすべき役割に立ち返ってこれを許さず是正する立場にたつのか。法と正義に基づいた判断が求められている。

 2 黙示の労働契約の成立について

控訴理由書で述べたように,原判決は,多数の事実誤認や証拠評価の誤りがあるばかりか,不正確な最高裁PDP判決の理解にたった判断や判断遺漏が認められる。また,既に主張しているように,最高裁PDP判決は,あくまで事例判断に過ぎず,実態を直視すれば,被控訴人ケイテムは控訴人とPEDJとの間の労働関係において形骸化した存在であると評価できるはずである。
   控訴審においては,原審で取り調べられた証拠や主張を再度詳細に吟味するよう求めるとともに,控訴審で申請した証人を採用し,十分な審理が尽くされるべきである。特に,原審では控訴人の採用や労務管理状況を明らかにするために裁判所も採用した被控訴人ケイテムのKA証人は,採用等に関する事実認定にとって必要不可欠であるから,再度控訴審でも採用し,証言を促すべきである。
   また,取締法規違反の私法上の効力については,本準備書面において,行政取締法規違反と私法関係の有効無効をめぐる学説及び判例の状況を踏まえて,本件におけるあてはめをする等さらに主張を補充したので,十分検討されるよう求めるものである。

 3 予備的主張(控訴人とPEDJとの明示の労働契約の成立)について

基本的な事実関係については,控訴理由書で述べたとおりであり(35~38頁),さらに被控訴人パナソニックの主張に対する反論を本準備書面で行った。控訴人の申告を受けてなされた福井労働局による是正指導以降の控訴人とPEDJとの間のやりとりを仔細に検討された上で判断されるべきであり,そのためには被控訴人ケイテムの2人の証人尋問及び控訴人本人尋問が不可欠である。

 4 不法行為の成立について

  控訴理由書で主張したことに加えて,被控訴人パナソニック主張に対する反論を踏まえた主張の補充と整理を本準備書面で行った。
 原判決も,被控訴人らが労働者派遣法に違反する状態にあること,すなわち違法性の認識を認定している(原判決32頁)。その上で,被控訴人らが共同して,控訴人の労働局への申告に基づく是正指導に対する報復として,一貫して執拗に控訴人を労働関係から違法不当に排除していった一連の事実経過からすれば,派遣先・派遣元として信義にもとる不法な行為を行ったことで控訴人に損害を与えたことは明らかである。
 このような不正義・不公平に対し,控訴審として目を閉ざして放置することは許されない。法と正義に基づいて,不法行為の成立を認めるべきである。

第2 訴えの追加的変更について

 1 被控訴人パナソニックの主張の概要

   被控訴人パナソニックは,控訴人らの控訴理由書における不法行為の主張が訴えの追加的変更に該当し,さらに,当該訴えの追加的変更については,請求の基礎に変更があること,著しく訴訟手続きを遅滞させるものであること,の事由があるので,当該訴えの追加的変更を許可すべきではない旨の主張をしている(1~9頁)。
   しかし,以下に述べるとおり,そもそも控訴人の不法行為の主張は訴えの追加的変更に該当せず,それゆえ被控訴人パナソニックの主張に理由はない。

 2 訴えの追加的変更に該当しないこと

(1)そもそも訴えの変更とは,訴訟係属中に原告(控訴人)が当初の訴えによって申し立てた審判事項を変更することをいう。
   しかし,被控訴人パナソニックは,新たな訴訟物の追加,訴えの追加的変更にあたると主張するだけで,訴えの追加的変更であると判断した理由・根拠を述べておらず,かかる点において,被控訴人パナソニックの主張は失当である。確かに,答弁書において,訴えの追加的変更にあたることを前提として,請求の基礎に変更があること,著しく訴訟手続きを遅滞させるものであること,については詳細に述べられているが,そのような主張をいくら述べても,訴えの追加的変更に該当する理由は明らかになっていない。
   それゆえ,以上で控訴人の反論としては十分と考える。しかし,念のため,被控訴人パナソニックの主張の理由・根拠について,控訴人においてある程度想定した上で,さらに以下のとおり反論する。

(2)被控訴人パナソニックの主張の理由・根拠としては,控訴人の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条,710条,719条)については,控訴理由書において,訴状の訴訟物とは異なる訴訟物について主張しているので,追加的変更に該当する旨が想定される。特に,被控訴人パナソニックの答弁書6~7頁の主張内容に鑑みるならば,控訴人による労組法7条1号の不利益取扱による控訴人の損害についての主張と,同条2号の団交拒否による控訴人の損害についての主張が,控訴審になってからなされた新しい訴訟物についての主張であるかのように主張することが想定される。
   しかし,控訴人(原告)は,訴状提出時から,被控訴人らの控訴人に対する一連の加害行為が不法行為に該当すること,そして,当該不法行為により,控訴人の,PEDJによる直接雇用のもとで安定して働くという法律上保護されるべき利益が侵害され,その結果,控訴人が被った精神的損害についての損害賠償請求が訴訟物であることを主張しており,控訴審になってから,一連の不法行為や控訴人の法律上保護されるべき利益について,新しく主張を始めたものではない。
   しかも,控訴人に対する不利益取扱,団交拒否のどちらの事実についても,原審では,訴状(8頁),原告準備書面(2)(6~8頁),原告準備書面(7)(40~43頁,44~47頁)において,繰り返し主張してきたところである。
   また,不利益取扱,団交拒否等は,前記の控訴人の保護されるべき利益に対するいくつかの侵害行為の一部に過ぎず,侵害行為ごとに訴訟物が成立する訳ではない。確かに,一連の不法行為について,控訴人が力点をおいて主張した部分が書面ごとに異なる部分はあるが,それは訴訟物が別であることを意味しない。
   さらに,控訴理由書において,控訴人に対する不利益取扱,団交拒否について言及したのは,原審判決がこれらの事実について何の判断も示さなかったため,控訴審において,裁判所による判断こそが求められていることを強調する趣旨に過ぎない。

 3 まとめ

   以上のとおり,不法行為も被侵害利益も,訴状から控訴理由書まで同一であるから,控訴人の不法行為の主張は訴えの追加的変更に該当せず,それゆえ,被控訴人パナソニックの主張に理由はない。

第3 取締法規違反による被控訴人らの契約関係の無効

1 はじめに

 原判決は,PEDJによる控訴人に対する指揮命令関係を認定し,控訴人の就労は法的に請負契約と評価することはできないと認定した(原判決28頁)。
 その上で,控訴人とPEDJとの間には労働契約関係が認められないから,PEDJと被控訴人ケイテムの関係は,請負契約の時期も含め,労働者派遣法2条1号の労働者派遣に該当し,それが労働者派遣である以上,職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当しないとしたうえで,労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,派遣労働者を保護する必要性等から,労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効となることはないと結論づけた(原判決28頁)。控訴人と労働契約関係にあるのは被控訴人ケイテム以外にありえないとの結論をとるものである。
 原判決は,行政上の取締規定には私法上の強行規定とはいえないものがあり,すべての法令違反を強行規定違反として無効とするわけにはいかないとの認識の上で,労働者派遣法は単なる取締規定であって,強行規定ではないから,事業主である被控訴人らの労働者派遣契約も被控訴人ケイテムと控訴人との間の労働契約のいずれの契約も有効であるとする。公法・私法を二分的に解釈し,法令違反行為の有効・無効を取締規定違反か強行規定違反かにかからせるという立場に立っている。
 しかし,もともと法令自体に取締規定か強行規定かが明示されているわけではない。したがって,このような考え方は,①法令違反行為の有効・無効をいかにして決するか,という判断基準の問題,及び②何に基づいて法令違反行為は無効とされるのか,という根拠づけの問題のいずれにも正面から答えていないし,理由を示さない結論を述べているに過ぎない。しかも,このような考え方は,公法・私法の関係に関する重大な誤解を含んでいる。公法と私法との関係は,原判決が解釈するような二分的・分断的な関係にあるのではなく,憲法が保障する基本権(以下「基本権」という)を公法(本件では労働基準法及び労働者派遣法等)が保護し(公法の基本権保護機能),私法(本件では労働契約法,民法及び労働基準法若しくは労働者派遣法の私法的側面等)が支援する(私法の基本権支援機能)という,相互依存の関係に立つものである。原判決は,この点の理解を欠いている。
 控訴人と被控訴人らの三面契約関係が,有効な労働契約関係であるとすることは控訴人の権利保障にかなわないことは明らかであり,PEDJと控訴人との間の雇用契約が成立する余地がないとする判断は,民法及び労働基準法,労働契約法,労働者派遣法の私法的側面を見ない判断であるといわざるを得ない。
 この点,原判決は最高裁2009(平成21)年12月18日判決を引用しているが,原判決自身が労働者派遣に違反する労働者派遣が行われたとしても,「特段の事情のない限り」そのことだけをもって労働者と派遣元との間の労働契約が無効となることはないとの判断を示しているのであるから,労働者派遣法違反が直ちに,派遣元である被控訴人ケイテムと控訴人との間の労働契約を有効とするわけではなく,特段の事情の有無が検討されなければならず,すなわち法目的に照らして派遣元と派遣先,及び労働者間の契約関係の有効性について判断されなければならない。原判決の参照する前記判例も,取締法規違反だから直ちに私法上の契約関係を有効とした判断ではない。
 そこで,本書面において,当事者らの契約の私法上の効力について控訴人の主張を整理する。

2 法令違反行為の私法上の有効・無効をいかにして決するかー判断基準の問題

(1)学説と裁判例の状況

行政取締法規違反と私法関係の有効無効をめぐる学説及び判例の状況を見ると,以下のとおり,4段階の発展過程が認められる。

ア 第1段階

 まず,法令違反行為の私法上の効力論に関し,ほとんど議論されていなかった時期があった。ただ,判例を見ると,少数ながら,取締法規違反の契約をその理由だけで無効としたものが見られた。たとえば,鉱業法違反の斤先掘契約などがその代表例であった。

イ 第2段階

 上記の裁判例の状況下で,末弘厳太郎が1929(昭和4)年に「法令違反行為の法律的効力」同『民法雑考』(日本評論社1932年,初出1929年)を発表した。
 この末弘論文は,法令違反行為の効力いかんという問題点を提示し,前記の第1段階における判例の傾向を批判し,法令の目的を達成するために必要ならば,違反行為を無効とすることが要請されるとしても,それを無効とすることによって当事者間に不公正が生じるときには無効とすべきではないと説いた。
 この末弘論文を機縁として,「法令違反行為の私法上の効力」という問題が存在することが意識されるようになり,通説と目されるべき考え方が形成された。
 すなわち,通説は,取締法規と強行法規を区別する。取締法規は,一定の行為が現実に行われることを禁止ないし防止することを直接の目的とするのに対し,強行法規は,当事者が達成しようとする私法上の効力の実現について,国家が助力しないことを直接の目的とする。すなわち,両者はその目的を異にすると考えるのであり,その基礎には,公法と私法を区別するという考え方,つまり公法・私法二分論があった。
 その上で,通説は,取締法規に違反した行為の効力について,次のような相反する2つの要請を認める。
 第1に,違反行為を無効とすることが,①取締法規の目的や,②違反行為に対する社会の倫理的非難の程度から要請される。
 しかし,第2に,違反行為を無効とすると,③取引の安全や,④当事者間の信義・公平を害するおそれもある。したがって,違反行為の効力は,①から④の要素を総合的に考慮して判断するほかはない(我妻栄「新訂民法総則(民法講義Ⅰ」(岩波書店)263頁以下。以下「総合判断説」という)。

ウ 第3段階

 戦後,新しい学説は,有効無効の判断基準として,総合判断説の枠組みを前提としつつ,法令違反行為の履行段階に着目する見解(以下「履行段階論」という)が登場した。川井健教授の見解(川井健「物資統制法規違反契約と民法上の無効ー取締法規と強行法規との分類への疑問」同『無効の研究』(一粒社1979年,初出1967年)26頁以下),磯村保教授の見解(磯村保「取締規定に違反する私法上の契約の効力」『民商法雑誌創刊50周年記念論文集Ⅰ・判例における法理論の展開』(有斐閣1986年)1頁以下)がそれである。
 これらの見解は,当事者の利害状況を履行前後により考慮するという点において,末弘論文の問題意識を継承し,総合判断説の枠組みを基礎とするものである。

エ 第4段階

 これに対し,1990年代に入り,総合判断説や履行段階論とは異なる考え方が提唱されるようになった。そのポイントは,これまでの考え方が公法・私法の区別を強調するのが支配的であったのに対し,両者の相互依存関係を正面から認めていこうとするところにある。前者の公法・私法二分論に対し,後者は公法・私法相互依存論と呼ばれる(山本敬三「前掲」,大村敦志「前掲」)。

(2)現時点での学説の状況

ア 総合判断説は,取締法規と強行法規とを区別するというが,法規自体にその区別が明示されているわけではないから,解釈によって決しなければならない。加えて,取締法規に違反する私法上の効力いかんについても,明文の規定がないから,総合判断説は,このように二重に明文の規定がない場合における解釈を定立しなければならないが,ただ単に「総合判断」というだけでは,このような場合における明確な基準を示したことにはならない。
 そのことは,総合判断説が前記(1)のイで述べた①ないし④を「総合的に考慮して判断する」と主張しつつ,実際には公法・私法を分断し,「取締法規に違反しているだけでは,原則として契約は無効とはならない」と述べ,予め結論を先取りするだけで,「総合」判断を行わずに契約を有効と決めつけていることになれば,公法私法二分論は変わるところはないからである。

イ しかし,現在の裁判例においては,たとえば,消費者取引のように当事者の取引の安全を問題とする余地がなく,また,当事者間の信義・公平の観点から取引を有効としなければならないケースも少ない。他方,消費者取引においては,違反が問題となる法令は,程度の差こそあれ消費者の利益保障に資するものである。
 すなわち,消費者取引においては,末弘論文以来,学説が強調してきた当事者の利益保護への配慮の観点は,むしろ法令違反行為の私法上の効力の否定の判断へとつながる。消費者関連の法令については,これに違反する取引は無効とすることが,むしろ当事者間の信義・公平にかなうと言える。
 そして,その理由は,違反行為の効力が問題となる法令の性質が変化してきたことに求められる。すなわち,従来は,違反行為の行為の効力が問題となる法令の規制目的は取引当事者の利益とは直接に関連のないものであることが普通であった。この場合にも,規制目的達成のためにぜひとも必要であるというのであれば,違反行為の効力否定も必要である。
 もちろん,目的達成のためにはその他の手段(行政処分,刑事制裁など)を用いることもできる。あえて違反行為の効力を否定するまでもないということもないわけではない。特に,取引の効力を覆すことによる弊害が大きいのであれば,違反は違反として別に対処することにして,私法上は有効とする方がよい場合もある。ところが,法令の中には契約当事者の保護をその目的(少なくとも目的の一つ)とするものもある。最近では,このような法令が増加している。消費者関連の諸法令はその代表例である。この場合には,法令の規制目的と取引の効力否定との間には矛盾は存在しない。法令違反行為を無効とすることが,規制目的にもかなうし,当事者の信義・公平を実現することにもなるのである(大村敦志「前掲」)。
 一方当事者の保護のためには明確に違反行為の効力を否定する趣旨の規定を置けばよい。しかし,違反行為の効力について明言しない趣旨の規定であっても,その規定の目的をよりよく実現するためには効力否定が必要であり,私法上もむしろそれが望まれるのであれば,そのような取扱いを否定する理由はない。
 問題は,ある規定が一方当事者の保護の趣旨を含む規定であるかどうかという点にかかってくるが,これはその規定の解釈の問題であり,個別に考える必要がある。
 ここでは,立法当初は必ずしも意識されていなくとも,その後の法体系の変化によって,規定の趣旨も変化するということはある。また,仮に法令違反の事実だけでは取引の効力否定に踏み切りにくいとしても,これは取引の効力否定の一要素(無効化の方向に機能する一要素)となる(大村敦志「前掲」)。

ウ 派遣労働者関連の法令違反の場合の法目的と私法的効力
 労働者派遣法及びその関係法令は,一面,労働者派遣事業の適正化を図るいわゆる事業者法としての性格を有し,違反事業者に対し罰則や行政指導や企業名の公表等の制裁を科すことによりその遵守を要求し,派遣労働者の雇用の安定を図り(労働者派遣法1条),労働基準法及び労働安全衛生法などと共に派遣労働者の基本権を保護することを目的とする。
 そして,憲法13条,25条1項及び27条1項に規定する労働基本権は,派遣労働者も当然に享受する主体であり,雇用の安定によって,派遣労働者の生命・身体の安全及び健康等を確保することにより,当然のことながら,労働基準法,労働契約法及び民法などと共に派遣労働契約の当事者である派遣労働者の基本権を支援することを目的としている。
 すなわち,労働者派遣法という同じ一つの法律が,事業者の規制を通じて派遣労働者の雇用の安定を図っており,公法的側面のみならず,労使関係という私法的側面の規制,労働者保護の側面も有しているのだから,他の公法及び私法と相互に依存し合いながら,派遣労働者の基本権を保護及び支援する法律であることは間違いない。
 さらに,派遣労働者に対する派遣先使用者の直接雇用の申込義務(法40条の4,40条の5,49条)等の規定を盛り込んだ改正が2003(平成15)年になされ,2004(平成16)年3月1日から施行された労働者派遣法は,従前の行政取締法上の「努力義務」とは区別された,派遣先の私法的な契約上の義務(派遣元との雇用関係の消滅を前提に派遣先が派遣労働者に対して直接に雇用を申込む義務)を盛り込んだのであるから,こうした法改定の内容を踏まえれば,労働者派遣法の目的と派遣元,派遣先,労働者間の三者契約の効力否定との間に矛盾相克は存在しない。
 法令違反行為を無効としたうえで,派遣先による指揮命令関係の実態にこそ私法上の効力を認めることが労働者派遣の規制目的にかなうし,当事者間の信義・公平を実現することにもなる。
 現に,2003(平成15)年成立の改正労働者派遣法の制定時の立法者の意思も国会答弁において表明されたとおり,司法の場において法解釈によって当該派遣労働者を救済することを否定していない。少なくとも2003(平成15)年の改正労働者派遣法制定時の立法者意思は,その後行政文書としても公開されており,厚生労働省職業安定局作成の『労働者派遣事業関係業務取扱要領』(甲14)に指摘されたとおりである。「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の第9・4(7)ホ(イ)(247ないし249頁)によれば,派遣先が労働者派遣契約による授権がない中で派遣労働者の指揮命令を継続している状態の場合について「派遣先との雇用関係が成立していると推定でき,訴訟において,派遣労働者は,勧告の内容に従った雇用関係の確認や損害賠償請求を行うことが可能である」とされている。
 上記の指摘は,違法派遣の状態であることが指摘されてなお,派遣元,派遣先との契約関係が維持され,形式上,派遣労働者が派遣元に雇用され,派遣先に派遣就労されている状態が事実上継続している状態の場合に,指導されたにもかかわらずこれを怠っている状態に関する指摘であるが,派遣先が違法状態であることを認識している場合には,派遣元と派遣労働者の「雇用契約」が存するという状態であっても,派遣先事業主と派遣労働者との間の雇用関係が,「訴訟において」すなわち司法判断によって,「雇用関係の確認」や「損害賠償請求の認容」がなされる可能性を指摘しているのであって,派遣先との黙示の労働契約の成立や損害賠償請求の認容が司法がなしうることを立法者意思として存在していたことを示している。

(3)裁判例における取締法規違反と私法上の効力

 従前の裁判例は,基本的には,上記の総合判断説の枠組みに従っていたと判断できる。そして,判例では,総合判断を行う際にも「取締法規に違反しているだけでは,原則として契約は無効にならない」という表現がとられてきた。
 そして,最高裁2009(平成21)年12月18日判決も,本件原判決も,派遣労働者と派遣元の労働契約の効力について,「特段の事情がない限り」労働者派遣法違反があっても,そのことだけをもって控訴人と被控訴人ケイテムとの労働契約関係が無効となるものではないと判示するのも,総合判断説にたっていると理解するのが妥当である。したがって,「特段の事情」があれば,請負ないし労働者派遣契約関係(派遣先の指揮命令の根拠となる派遣元と派遣先の契約および派遣元と労働者の雇用契約関係を構成要素とする三者契約)を無効と判断することも可能であるとするから「総合判断説」の立場にたっているといえる。
 本件では,派遣先による指揮命令,派遣先による契約解除という行為に対して,労働者の権利をいかに保護するのかが問われているのであり,真実は,派遣先の賃金支払い代行機関に過ぎない被控訴人ケイテムと控訴人の雇用契約関係の効力を有効としただけでは足りず,控訴人に対する保護にならない。むしろ,PEDJの指揮命令の持つ根拠をどこに求めるのかという根拠について違法な労働者派遣契約があることにより,これを正当化させることは適当ではなく,三者契約の前提となる事業者間の契約を無効とする方が法の趣旨に沿う解釈のはずである。
 したがって,上記最高裁判決もそれを参照した原判決のいずれも,その結論のみならず理由づけも誤っているものであり,いずれにしても,私法上の効力についてのひとつの事例判断に過ぎない。
 本件では,その具体的事例に沿って,私法上の効力が検討されなければならない。

3 私法上の効力否定の根拠

(1)法令違反による私法上の効力が否定される場合の根拠は,強行規定違反(民法91条)であるのか,それとも公序良俗違反(民法90条)と解すべきかが問題となる。
(2) 総合判断説は,法令(取締法規)中には,違反行為の効力を否定するもの(効力規定)とそうでないもの(単なる取締規定)とがあるとして,効力規定は強行規定であるが,単なる取締規定は強行規定ではないとする。
 総合判断説からの帰結は,①違反行為の個別事情は捨象すること,②公序良俗には依拠しないことだからである。
 しかし,これら2点は,理論上も実務上も貫かれてはいない。
 すなわち,法令違反行為の効力の判断基準として,末弘論文以来の4要素,つまり,①規定の趣旨,②倫理的非難の程度,③取引の安全及び④当事者の信義・公平を用いる以上,法令違反を公序良俗と切断することはできない。②の「倫理的非難の程度」とは違反行為の反社会性の程度ということであり,これは,公序良俗違反かどうかの判断と同質だからである。結局,総合判断説によっても,最終的には民法90条による公序良俗論と同質の判断を迫られざるを得ない。
 したがって,本件でも民法90条違反による私法上の効力を論じる必要がある。
(3)また公法・私法を相互依存的に把握する立場からは,すべて民法90条の問題として位置づけることが可能となる。
 すなわち,民法90条によると,公序良俗に反する行為は無効とされる。しかし,この民法90条自体は,何が公序良俗に反するかを定めていない。
 これについては,立法者自身が公序良俗違反の内容を具体化して,違反行為を無効とする個別規定を置くこともある。これが強行法規である。これに対して,立法者が公序良俗違反の内容を具体化しているとみることができるけれども,その違反行為の効力については特に規定していない場合もある。そうした場合には,裁判所が民法90条を用いて,その法令を補完することが要請される。そこに取締法規の問題も位置づけられる(山本敬三=大橋洋一「前掲」11頁における山本敬三発言)。
 なお,この点は前述しており,原審準備書面にも引用したが,2003(平成15)年改正労働者派遣法が制定された際の厚生労働委員会質疑において,政府参考委員は国会での質問に対する答弁において,直接雇用申込み義務違反があり,勧告にも従わないような場合は,司法において,雇用関係の確認ないし損害賠償請求が命じられる可能性があると答えていたのであり,立法者自身が法違反による私法上の無効ないし違法性の根拠となるとの認識を示していたことに照らせば,民法90条違反による私法的効力を視野においていたことは明らかである。
 原判決は,私法上の有効無効について,単に取締法規違反のみを理由に判断を示しているが,民法90条違反の解釈を一切展開しておらず,この点で前記PDP最高裁判決の示した民法90条の適用の可能性についても本件の事情を踏まえた判断を行わないという誤りを犯している。

4 本件へのあてはめ

(1)無効とすべき「特段の事情」の存在

 本件において,原判決は,被控訴人らが労働者派遣法違反の認識を有し違反行為を行っていたことを明確に認定している(32頁)。
 控訴人も,労働者派遣法違反での就労があったことだけをもって,本件の被控訴人らの契約及び被控訴人ケイテムと控訴人との間の労働契約が無効になると述べているものではないし,不法行為上の違法性があると述べているわけではない。既に述べたとおり,2009(平成21)年12月18日最高裁判決は,取締法規違反があったことだけをもって,私法上の契約関係が無効となるものではないとの判断を示したに過ぎない事例判決であるから,上記最高裁判決を踏まえても,本件は,PEDJと被控訴人ケイテム間の行為の違法性の程度は高く,民法90条の適用を受ける事案であり,当然のことながら不法行為上の違法性を根拠付けられるのである。原判決は,控訴人のかかる主張を理解せず,判断も示していない。

(2)労働者派遣法の目的と私法関係

 労働法規が私法的効力を有するか否か,そしてその内容はいかなるものかは,当該法規に示された各条項の特徴に即して具体的に判断せざるをえない。明文の禁止・義務づけ条項があれば,当然のことながら,当該規定は,原則として私法的強行性をもち,それに反する行為は違法・無効となる。さらに,仮にかかる明示的規定がなくても,法規違反が他の要素と相俟って公序良俗違反(民法90条)になりうる場合は,当該行為は私法上も無効となることは既に述べたとおりである。
 そして,取締法規違反の行為が直ちに無効とならないとしても,当該行為が犯した法規の内容や法目的違反の程度,無効となった場合の取引の安全の考慮の有無など諸要素を勘案して,それが公序良俗に反すると評価できる場合は,民法90条違反により,無効と解すべきである。

(3)民法90条適用の根拠となる違反を示す事実

 そこで,被控訴人らの行為の法違反の内容,違法の程度を勘案するならば,以下のような事実が認められるのであり,こうした事実に照らせばPEDJと被控訴人ケイテム間の契約,被控訴人ケイテムと控訴人との間の労働契約についても,取引の安全を考慮する必要がない。
 そして,本件は長期かつ多岐にわたる違法な就労形態が被控訴人らの共同行為として継続されてきた。その違反した内容は,以下のアからカのとおりである。

ア 無許可の派遣労働契約の締結

 被控訴人らと控訴人が契約を締結した2005(平成17)年2月21日から2006(平成18)年11月1日までの間,控訴人はPEDJと被控訴人ケイテム間の請負契約のもとで実質的な派遣労働をしていたことは争いがない。2005(平成17)年2月21日は,製造業に対する労働者派遣の禁止が解禁されて(2004(平成16)年3月1日施行)から既に1年近くが経過していた。
 したがって,本来であれば被控訴人らは,厳格に定められている労働者派遣法の規定にしたがって控訴人と契約を締結しなければならなかった。
 労働者派遣契約を締結する場合,被控訴人ケイテムは,一般労働者派遣事業を行おうとする者として厚生労働大臣の許可を受けなければならず,一般労働者派遣事業を行う事業所の名称及び所在地,派遣元責任者の氏名及び住所などを一般労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る事業計画書その他厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない(労働者派遣法5条)。控訴人らが就労していた事業所ごとの事業契約には当然のことながらこの届け出には含まれていない。かかる手続がとられることなく,厚生労働大臣所管の行政機関である福井労働局に認知もされない状態で控訴人を就労させていた。
 そもそも労働者派遣が,労働基準法6条,職業安定法44条に定められ供給元も供給先も罰則によって禁止された労働者供給の例外として規定された以上,労働者派遣契約を締結することは労働者派遣法の適用を受けるための不可欠な手続であるが,これを欠いたまま就労が開始されたのである。

イ 労働者派遣契約の締結義務違反

 被控訴人らは,控訴人を就労させるにあたっては,労働者派遣契約を締結しなければならないのは当然である上,法律上定められた内容について契約において明示的に決定しなければならない(労働者派遣法26条1項)が,被控訴人らは2006(平成18)年11月1日まで締結していなかった。
 派遣元事業主は,控訴人に対して,労働者を派遣労働者として雇い入れようとする旨を明示しなければならない(同法32条)。被控訴人ケイテムは,こうした行為を1年以上してこなかった。
 派遣先事業主は,控訴人を派遣先において指揮命令する責任者として派遣契約において定める内容を遵守する義務を負い(法39条),派遣先は,その指揮命令の下に労働させる派遣労働者から当該派遣就業に関し,苦情の申出を受けたときは,当該苦情の内容を当該派遣元事業主に通知するなどの義務を負い,その指揮命令の下に労働させる派遣労働者の派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため,診療所,給食施設等の利用の便宜や就労環境の整備を行う義務がある(法40条)が,PEDJは,かかる義務を明示的に行うことはなく,法律上の根拠を欠いたまま,控訴人を1年以上も直接指揮命令して就労させていた。

ウ 労働者派遣受入期間制限の違反

 製造業における派遣先事業主による派遣受入期間は,原則として1年に限定され,例外的に派遣先事業所の労働者の過半数を超える労働者代表からの意見聴取手続によって3年以内の範囲で期間設定が許されるだけである(労働者派遣法40条の2)。原審でも述べているとおり,PEDJにおける実質的な労働者派遣状態は,労働者派遣が解禁された2004(平成16)年3月1日より以前から継続しており,控訴人が就労し始めた2005(平成17)年2月の段階で既に3年を超えて実質的な労働者派遣が行われてきたことは争いがない(労働局の指導文書である乙A14号証,乙B4号証には1999(平成11)年8月6日から法律に基づかない違法な労働者派遣が行われたきたことが認定されている)。
 したがって,控訴人の就労の開始から労働者派遣の受入はできなかったのであるから,控訴人を直接雇用しない状態で就労させることそれ自体が許されない状態であった。
 また,その後,労働者派遣契約に切り換えた2006(平成18)年11月1日以降ももちろん,派遣受入可能期間の制限を超えた労働者派遣契約の締結を行ったのであり,たとえ労働者派遣法に則った契約を締結し直したとしても,被控訴人ケイテムと控訴人との間の契約が適法となることは全くなかった。

エ 派遣労働者に対する抵触日の通知がない場合の労働者派遣契約締結の禁止

 上記のとおり,被控訴人らの違法行為は,そもそも2005(平成17)年2月21日の段階から既に労働者派遣受入可能期間の違反があり,それ自体修復不可能な違法行為のもとでの就労であったことからすれば,その後の被控訴人らの行為は,たとえ形式上労働者派遣契約を締結したとしても修復できない違法状態が継続していたことになる。
 そして,労働者派遣契約を締結する場合,派遣先事業主であるPEDJは,派遣元事業主から新たな労働者派遣契約に基づく労働者派遣の役務の提供を受けようとする者として,あらかじめ,当該派遣元事業主である被控訴人ケイテムに対し,当該労働者派遣の役務の提供が開始される日以後当該業務について同条第1項の規定に抵触することとなる最初の日を通知しなければならない(労働者派遣法40条の2,5項)が,これは真実の通知をしていないことが明らかである。また,被控訴人ケイテムも,控訴人が既に2005(平成17)年2月21日から実質的には労働者派遣で就労していたことは認識していたのであるから,真実の通知がされていないことは認識していたのであり,意識的に虚偽の通知が形式的になされたことを前提に労働者派遣契約を締結してはならない(労働者派遣法40条の2,6項)。
 2006(平成18)年11月1日から開始された労働者派遣契約では,派遣受入可能期間の違反があることは明らかであり,故意に虚偽の抵触日の通知がされていても,それは労働者派遣法規定を遵守した契約とはなりえない。

オ 労働者の特定の禁止

 さらに,2006(平成18)年11月1日以降の労働者派遣契約は,就労の実態に何ら変化がないまま締結されたものであるが,労働者派遣契約を締結するにあたっては,労働者派遣の役務の提供を受けようとするPEDJは,労働者派遣契約の締結に際し,当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない(労働者派遣法26条7項)。しかし,PEDJは,控訴人の就労を形式上,適法に見せるためだけに特定して行っているのであるから,努力義務違反にとどまらない違法行為を行ったといわなければならない。とりわけ労働者派遣における労働者の特定行為は,労働者派遣の本質である雇用主は派遣元という制度の根幹に関わる違法行為であり,その違法の程度は極めて重大である。

カ 直接雇用申込み義務違反

 2003(平成15)年に改正され,2004(平成16)年3月1日に施行された労働者派遣法の改正規定は,それまで雇用責任があいまいであれば労働者の生命身体に対する安全の保護という性質上製造業においては禁止されてきた労働者派遣が解禁されることに伴って,本来的な安全配慮義務を負う雇用主の側面を強化するために,派遣先事業者に対してその責任を強化する規定である直接雇用申込み義務(法40条の4等)が規定された。
 ところが,被控訴人らは,上記のとおり,改正労働者派遣法が施行されていながら,こうした責任が生じる手続は一切取らず,控訴人を就労させてきた結果,上記の雇用責任発生のための手続上の規定,すなわち労働者派遣契約の締結及び契約締結時の派遣先事業主から派遣元事業主への派遣受入制限期間の抵触日の通知など一切の手続をとらないまま,なおかつ本来の派遣受入可能期間の抵触日以後も控訴人に対して派遣受入可能期間の抵触日到来前に雇用契約の申込みを行うという義務(労働者派遣法40条の4)まで怠ってきた。
 被控訴人らの行為は取締法規違反であったとしても,義務を負っているのは直接雇用の契約の相手方である控訴人に対してであり,これらの義務が私法上の効力を有する義務を含むものであることは規定上も明らかである。
 したがって,被控訴人らが義務を怠っている行為は,本来の労働者派遣法の原則をないがしろにし,かつ派遣先事業主の義務の履行を容易に回避させる違反行為であることに鑑みれば,直接雇用の申込み義務の違反はもちろん,それを導く手続上の規定違反についても,派遣契約の締結から通知義務違反,派遣受入期間を明示した契約の締結といった一連の行為が,控訴人に対する直接雇用申込み義務違反行為であり,この違反行為は,製造業解禁における労働者に対する雇用責任という制度の根幹に関わる重大な規定違反であり,労働者保護という目的に違反した行為である。

キ 是正申告した派遣労働者に対する不利益取扱の禁止違反

 控訴人は,自らの就労形態が労働者供給禁止違反にも該当するのではないかと気づいたことから,福井労働局に是正指導を求める申告を行い,福井労働局は,被控訴人らに対し,控訴人を含む労働者の雇用の安定を図ったうえで,是正をするよう指導を行った(乙A14,乙B4)。
 しかし,PEDJは,控訴人に対し,従前の就労条件と比較しても極めて低条件の提示をして事実上,直接雇用を拒むと共に,控訴人が自ら,さらには労働組合を通じて,低条件について異議を留めて就労を継続することを回答したにも関わらず,直接雇用での就労の受入を拒否したものである。
 PEDJの行為は,労働者派遣法違反の違法性を申告した労働者に対する不利益取扱の禁止規定(労働者派遣法49条の2)に反する行為であり,上記アからカで述べて来た数多くの労働者派遣法規定に反する控訴人,被控訴人らの三面契約関係という違法行為に加え,派遣労働者の労働局への申告行為に対する保護という法秩序維持のための重要な規定にも反する行為を行ったのである。

(4)本件での労働者派遣法違反行為が私法契約関係に及ぼす効果

 上記のとおり,被控訴人らの労働者派遣法違反行為は,労働者派遣契約の締結という制度の根幹に関わる重大な違法行為に始まり,2003(平成15)年の改正労働者派遣法の規定の重要な要素である派遣先事業主の派遣労働者受入可能期間の制限及びそれと一体となった直接雇用申込み義務という規定を無実化する違法行為であったことは明らかである。
 かかる観点から,法令違反行為の効力の判断基準として,末弘論文以来の4要素に照らせば,①派遣労働者の受入制限と派遣先の雇用責任の強化という改正派遣法の規定の趣旨に意図的に反した行為であること,②雇用責任という労働契約関係の最も重要な責任を回避する違反行為を重ねてきたという意味で被控訴人らの倫理的非難の程度は高いこと,③控訴人と被控訴人らの責任追及にあたって,被控訴人らの間の契約関係を無効としても,取引の安全を脅かすということは全くないこと,さらに④被控訴人らが長年にわたって違法行為を故意に行ってきたという事実を前提にすれば,何も知らないまま労務を提供してきた控訴人との信義・公平に照らしても,被控訴人らの労働者派遣法違反行為の私法上の効力は,公序良俗に反すると言わざるを得ないのであり,総合判断説によっても,被控訴人らの契約が最終的には民法90条に反するものであると解すべきである。

5 労働者派遣法違反以外の民法90条違反を根拠づける事実

 本件に先だって,原判決自身が引用している最高裁2009(平成21)年12月18日付け判決にも指摘されてきたとおり,PEDJのグループ会社であるパナソニックプラズマディスプレイ茨木工場で働く労働者は,2005(平成17)年5月に大阪労働局へ違法状態の是正申告をした後,違法就労状態にあった。
 PEDJは,そのグループ会社で2005(平成17)年5月以降既に労働局から是正指導がなされていた偽装請負契約をその後も是正することなく継続してきたものであり,もはや過失とは到底いえない状態で控訴人を就労させていたことも明らかとなった。
 原判決も指摘するとおり,被控訴人らは,その企業の規模からみても,また現にグループ会社において既に是正指導を受けていたことに鑑みても,労働者派遣法に違反するということを十分に認識しながら偽装請負契約を継続していたのである。
 こうした特別の事情を踏まえれば,被控訴人らの請負ないし労働者派遣契約の効力を維持することは不適切である。被控訴人らの行為が,単なる取締法規違反のみならず,長年にわたって違法行為を継続し,本件においても十分にその違法性を認識しながら違法行為を継続したのであるから,被控訴人らの契約関係を保護する必要は全くない。
 労働者派遣法違反のみならず,被控訴人らの動機において不法目的があることを考慮するならば,本件においては,被控訴人における長年にわたる違法な契約の継続は,それ自体公序に反する違法行為であり,民法90条によってPEDJと被控訴人ケイテムとの間及び控訴人と被控訴人ケイテムとの間の両契約関係は無効と言わざるを得ない。
 この点,上記最高裁判決が「特段の事情がある」場合に私法行為が無効となる場合もあることを認めており,本件では被控訴人らの違法性の程度が極めて重大である点を看過してはならない。

6 まとめ

 原判決は,労働者派遣法違反の効力の点でも労働者派遣法違反の多様かつ継続的,故意的な違法行為の認識を考慮しないままにその私法的な効力を判断している。そして,上記最高裁判例でも,私法的効力を否定することを示した「特段の事情」を全く検討することもしないものであるから,従前の判例の理解を欠いたものと言わざるを得ない。雇用責任がPEDJにないと被控訴人らが主張する根拠となる被控訴人らの契約関係は無効と解すべきであり,控訴人と被控訴人ケイテムとの雇用契約関係を有効とし,PEDJと被控訴人ケイテム間の契約関係が労働者派遣関係であるという前提で被控訴人ケイテムとPEDJ及び控訴人との三者契約を有効としながら,PEDJと控訴人との間の労働契約関係のみを否定した原判決は,控訴審において正しく変更されるべきである。

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