パナソニック若狭工場事件・控訴理由書③

5 労働者派遣法の目的と違反行為の違法性
(1)労働者派遣法違反によって侵害される利益
原判決は,労働者派遣法は,その実効性確保のために,基本的には,各事業主に対する厚生労働大臣による指導,助言及び勧告,改善命令,公表等という制度を採用しているに止まり,派遣労働者に何らかの権利・権限等を認めるということまでは認めていない」(原判決32,33頁)との判断から「したがって,労働者派遣法は,派遣元及び派遣先の各事業主に対して様々な規制を加えることによって,間接的に派遣労働者の権利利益を守ろうとしているに止まると解されるのである。」(同33頁)としたうえで,こうした判断から直ちに「労働者派遣法が守ろうとしている派遣労働者の利益は,派遣元及び派遣先の各事業主の違反行為につき,・・・不法行為法上,法的保護に値する利益とまでは評価できない」(同33頁)という理由で不法行為法上の違法性を否定しているが,暴論である。
原判決の理屈でいえば,前記のとおり食品衛生法に反して有害な食品を販売した業者については,食品衛生法で定められた基準に反していても直ちに不法行為法上の違法性を有することはなく,したがって人体などに影響が出るなどの法益侵害がない限りは不法行為法上の違法性を有しないということになりかねない。
そもそも労働者派遣法は,その実効性確保のために,労働大臣の指導,助言,勧告,改善命令,公表などの制度を作用しているに止まらない。許可無く派遣事業を行うことを禁じ,そうした違反がある場合は営業許可の取消や営業の停止命令を発する権限を有しているし(法14条),懲役1年以下もしくは100万円以下の罰金を科す刑罰まで規定している(法59条)。
罰則や営業許可の取消などの手段によって派遣元派遣先事業主に対する強制的な措置も可能としているのであって,間接的な強制に止まるという判断そのものが誤っている。
(2)労働関係諸法規違反の違法性
また,原判決は,労働者派遣法違反によって守られている労働者の権利・権限が派遣法に規定していない(原判決33頁)とするが,そもそも労働者派遣法は,職業安定法,労働基準法,労働契約法,労働安全衛生法など憲法27条に由来する労働者の権利保護を規定した諸法規とともに存在し,それらの労働者保護体系の下で間接雇用などかかる労働保護法規から除外されかねない労働者が発生しないように間接雇用を規制しているのであって,かかる労働諸法規によって保護される労働者の権利侵害の有無があるのに,原判決は,完全にこうした労働諸法規によって保護される労働者の権利侵害の側面を見逃している。
職業安定法や労働者派遣法が原則として間接的な雇用を禁止し,一定の法律上の要件の下でのみ,労働者派遣を許しているのは,本来であれば労働者の労働条件や生命身体の安全に責任を負う雇用主としての義務が果たせない危険があることからこれを禁じているのであって,労働者派遣法によって保護される労働者の権利は,指揮命令に基づいて労務提供を受けている事業主に対して,こうした労働諸法規によって保護されない労働者を生み出さないことにその目的がある。
本件のごとく,本来であれば労働者派遣が許されていなかった時期から無許可派遣状態で控訴人を就労させた上,さらに控訴人を特定して(労働者派遣法26条7項違反),労働者派遣契約を締結したのであるが,この時期被控訴人PEDJの親会社が大阪事業所において厚生労働大臣から指導を受けていた点を併せ考慮すれば,被控訴人PEDJに労働者派遣法を脱法する意図があったことは明らかな事案である。
それにも関わらず,原判決は,労働者派遣法は取締法規に過ぎないからその違反行為があっても違法性を有さないと述べるのみであって,その理由が示されていない。
(3)控訴人の侵害された権利
既に述べたとおり,被控訴人らが,控訴人の就労が労働者派遣法に反して,本来であればありえない契約での労働者派遣を行ってきたことを被控訴人らが認識していないはずはない。なぜなら,2004(平成16)年当時は既に請負という名称で「労働者派遣法」違反が多くのマスコミで報道されていた時期であり,また,被控訴人PEDJは,既に親会社が労働者供給違反でもって指導を受けた関連会社で派遣契約の解除とグループ会社によって100人規模の直接雇用が実施された直後であるにも関わらず,本来であれば既に期間制限が過ぎている労働者派遣契約を締結していたのである。
そもそも控訴人は,被控訴人PEDJ若狭工場で就労する意思をもって応募していた。しかし,就労する方法が被控訴人ケイテムとの契約であり,それ以外に方法がなかったため,指示された方法にしたがって被控訴人ケイテムとの間で雇用契約を締結したに過ぎない。そして,労働者派遣であるにもかかわらず被控訴人ケイテムは,請負契約を被控訴人PEDJと締結したうえで,控訴人と有期の雇用契約に止めた。その上で,被控訴人ケイテムは,控訴人との派遣労働契約の更新を繰り返し,控訴人は4年1ヶ月以上にわたって就労を継続してきた。
この結果,控訴人は,形式上の雇用主である被控訴人ケイテムとの間では派遣労働契約ゆえに継続雇用者が有する地位(期間の定めのない契約と同視できるか,少なくとも継続雇用の期待が保護される地位)は派遣先会社の事情によって簡単に喪失してしまう契約形態で就労を余儀なくされたものである。
さらに,被控訴人PEDJとの関係では,本来であれば派遣就労可能期間満了でもって派遣形態での就労を継続できない以上,被控訴人PEDJの義務として直接雇用されることが可能な立場を獲得できる地位が侵害されたのである。
被控訴人らの違法な契約が,労働者派遣は常用雇用の代替を禁じあくまで臨時的一時的雇用についての例外的就労形態としようとする労働者派遣法の目的を侵害し,労働者らが直接雇用される地位を侵害していることは明らかである。
6 労働者派遣法40条の4違反における事業主の義務の解釈の誤り
 原判決は,労働者派遣法40条の4違反について「派遣先は,この雇用契約の申込をするか否かを自由に選択できる」「申し込む際の契約内容(労働条件)についても自由に選択できること」と解釈した(原判決33頁)。
 しかし,かかる解釈は,条文の文言も無視し,さらに立法経緯も立法時の政府答弁も全く無視したものであり,法律家としての資質が問われる判断と言わざるを得ない。
 そもそも労働者派遣法40条の4は,派遣元と派遣先の派遣労働契約締結時に派遣受入可能期間を超える日(抵触日)が規定され,派遣労働者に対して抵触日が通知されていること,派遣先が抵触日を超えてなお,当該派遣労働者を使用する場合等の一定の要件を必要とするものの,派遣先使用者が派遣労働者に対して直接に「雇用契約の申込みをする義務」がある旨を規定しているのであるから,派遣先使用者に申込をするか否かの自由があるという法律解釈を行う余地はない。
 派遣先使用者による申込みが自由なのに,厚生労働大臣が指導し,勧告を行うことなど出来るはずがない。この義務は契約の申込義務であるから,その相手方は当然に派遣労働者以外にはないのであり,これが派遣先使用者の自由にゆだねられているというような解釈は考えられない。原判決がかかる解釈をするのであれば,少なくとも文言上の矛盾を説明し,その解釈の根拠が示めされなければならないが,原判決には一切理由が示されていない。申込義務の相手方が派遣労働者である以上,申し込む義務を享受する労働者に権利があるのは当然である。
 さらに,原判決は,労働者派遣法40条の4が制定された際の国会の委員会答弁に反しており立法者意思も無視した判断となっている。立法当初に説明されていた直接雇用申込み義務の内容については,労働者派遣法40条の4,40条の5の規定と併せて2007(平成15)年6月5日厚生労働委員会においてその内容について質問がなされ,以下のような政府答弁がなされている。

(1)直接雇用申込義務の強行法規性,不履行に対する請求

○今泉昭君 雇用申込みにおける労働条件の提示等の扱いにつきまして は,期間制限の掛かる業務の場合と同様であるというふうに考えてよろしいですね。

○政府参考人(戸苅利和君) これにつきましては,先ほど来議論になっていますけれども,四十条の四であろうと四十条の五であろうと同じ扱いになると思います。

○今泉昭君 雇用の申込義務というのは,派遣先が同様の業務で新たに雇用しようとする場合にその都度発生するものと私は考えておりますが,例えば,一度当該申込みをして派遣労働者が断った場合でも,次に雇用しようとするとき改めて申込みをする必要があるかどうか。通常の常識では,断った直後の追加的な雇用,追加的に雇用する場合までは求めないにしても,少なくとも半年経過すれば当該労働者の考え方も以前のときと全く変わらないとは言えないわけでありまして,新たに意思を確認する必要があると考えられますが,どのように考えていらっしゃるかどうか。
 また,あらかじめ派遣契約において直接雇用の申込みはしないと定めることは,期間が三年を超えるような派遣においては拘束力はない,そして無効であるという法の趣旨と合致すると考えますけれども,この点についてはどのように考えられますか。

○政府参考人(戸苅利和君) 雇入れの申入れをした後,本人が,派遣労働者の方が,いや,まだ派遣で働きたいというふうなことがあった場合の御質問だと思いますが,また別の事由というか,そのときと状況が変わって,またその労働者を雇おうというふうなことを事業主が思って,その労働者が更にずっと引き続き働いていて三年を超えているといった場合には,その派遣労働者に雇入れの申入れをするというのは御質問のとおりだと思います。
 ただ,その間の期間がどのくらいの期間がいいのかという辺りはいろいろ議論になると思いますので,この辺りは,その運用をどうするか,解釈をどうするかということについては施行までに検討してまいりたいと思います。
 それから,もう一点でありますけれども,今回の法案におきます雇用契約の申込義務でございますけれども,これは派遣先につきまして,派遣労働者への雇用契約の申込みを義務付けるという法的な規定でありますので,今御質問のように,私人間でこの法律の規定と異なる定めをいたしましても,法律的には法律が優先するということだと思っていまして,派遣先は当然,そういった派遣元と派遣先あるいは派遣先と派遣労働者の間での私的な雇用契約にかかわらず,派遣先としては申込義務の履行を求められるということになると思います。

(2)直接雇用申込み義務の際の派遣先の労働条件は就労先の基準

○今泉昭君 雇用契約の申込みにおきまして,雇用期間,雇用形態,労働条件についての特段の規定はありませんけれども,派遣先において同様の業務に従事する雇用者,労働者という者がいる場合があるわけであります。もちろん正規従業員もいますし,パートという形で直接その企業が雇用している労働者も当然いると思うんでございますけれども,その場合に,直接同じような条件で働いている人たちとのいわゆる労働条件の仮に差があった場合に,それはいわゆる差別ではないだろうか,均等待遇にはなっていないんじゃないかと,こういうふうにも考えられるんですが,その場合はどういうふうに考えられますか。
 また,同様な業務に従事をする直接雇用労働者が存在しない場合におきましても,それまでそこで働いておりました同様な派遣労働者と同じような労働条件とか,あるいは世間一般の条件に均衡した条件が当然示されてしかるべきだというふうに考えるわけですけれども,この点についてどのように考えられるか。
 また,雇用申込義務の形式だけを整えるために,当該労働者にとって到底受け入れられないような雇用の労働条件が提示をされた場合に,果たして義務が果たされたというふうに考えられるかどうか,また,労働条件が全く提示されなかったような場合にはどのように考えられるか見解を聞かせてください。

○政府参考人(戸苅利和君) 派遣として受け入れていた労働者を自分のところの雇用労働者として雇い入れるといった場合の労働条件でありますけれども,これは,同じ業務に就いているといった場合でも,日本の賃金制度あるいは賃金水準,これの実態からいいますと,業務給あるいは業績給といいますか職務給といいますか,そういった部分だけでない年功給,勤続給的な部分があって,例えば,将来への期待とか,それからこれまでの企業に対する貢献度とか,そういったことを背景に決まっている給与があるわけであります。その辺りは就業規則で賃金規定が定まっておりまして,それに沿って判断するというのが一般的だろうと思いますが,ただ,派遣労働者を常用労働者に雇うといったときにうまく当てはまる規定があるかどうかということになろうかと思います。

 上記の答弁は,直接的には労働者派遣法40条の5に関わる答弁ではあるが,直接雇用の申込み義務を排除する合意は無効であり,この不履行がある場合は労働者は履行請求が可能であり,また申込み義務の内容も,派遣先の労働者の労働条件に従って採用が原則的な考え方であると説明されているとおりであり,原判決のように,派遣先が直接雇用の申込みをするのも,その内容も自由であると考えられているものではない。
7 まとめ
 以上のとおり,原判決は,労働者派遣法が遵守されて,適法な就労関係で就労をしていたならば享受しえた地位(被控訴人PEDJとの間で直接に期間の定めなく雇用され,労働基準法,労働契約法の法規によって正当事由がなければ解雇されない地位や被控訴人PEDJに対して健康で安全な労働環境の提供を求めるうる地位を侵害されたことは明らかであり,労働者派遣法違反によって,かかる労働諸法規から保護される地位を奪われたのであるから,被控訴人らの違法行為が不法行為法上の違法性を備えることは明らかである。
 かかる労働者に対する法的利益を否定して不法行為法上の違法性すら否定した原判決は改められなければならない。
8 直接雇用の承諾を無視した被控訴人PEDJらの不法行為責任
 前記のとおり,原判決は全く検討していないが,控訴人は被控訴人PEDJが新たに直接雇用に関する条件の提示に対して異議を留めつつ承諾し,今後労働組合を通じた条件交渉を求めていた。
 しかし,被控訴人PEDJは,かかる控訴人の申出を無視し,さらに労働組合による団体交渉申し入れも無視して控訴人を就労場所から排除した被控訴人PEDJの行為は,違法派遣を指摘し,適法な労働者派遣であれば当然得られたであろう労働条件を求める控訴人の労働組合活動を嫌悪し,その活動を封じる不当労働行為意思(労働組合法7条1号・2号)に基づく不法行為であることは明らかである。なお,判例(クボタ事件・東京地裁平成23年3月17日判決)や中労委決定(ヤンマー事件・中労委平成22年11月10日決定)は,派遣先企業が直接雇用を予定する派遣労働者の加入する労働組合との団交応諾義務を認めている。 
 また,効力規定と解されている労働基準法104条と同旨の不利益取扱い禁止規定としての労働者派遣法49条の3第2項にも違反する不法行為が成立する。
 そして,これらは被控訴人らが共謀して不法行為を行ったと認められる。 
第7 おわりに
   以上述べたことからすれば,本件控訴が認容されるべきものと確信するが,控訴人としては,さらに追加で,主に①控訴人と被控訴人PEDJとの間の2009(平成21)年1月22日における労働契約の成立②取締法規違反と私法上の効力③「特段の事情」論④不法行為の成立の各主張を補充する準備書面及び書証の提出並びに証人申請・控訴人本人尋問申請等を予定している。
以上

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

2012年04月20日 05:38
端的に語れないことはよくわかった。

この記事へのトラックバック