パナソニック若狭工場事件・控訴理由書②

 4 原判決が黙示の労働契約の成否の判断に影響する重要な事実について判断を回避したこと
(1)原判決による不当な判断回避
   控訴人は,原告準備書面(7)22~24頁において,黙示の労働契約の成否を判断するにあたり重要な事実として,①2006(平成18)年11月1日の業務請負から派遣への切替における控訴人の労働実態(被控訴人PEDJによる指揮命令・労務管理等)に何の変化もなかったこと,②2008(平成20)年2月ころに開始された派遣労働者の請負化計画において,被控訴人PEDJが控訴人ら社外工に対して,雇用主でなければできない教育訓練,人員配置の決定等をしたこと,を指摘した。
   ところが,原判決は,これらの指摘に対して,何の判断も示さなかった。
   しかし,①の事実は,業務請負契約,派遣契約が単なる形式上のものに過ぎなかったこと,控訴人の労働実態に鑑みるならば黙示の労働契約が成立していることを肯定する事実であって,控訴人の主張の成否を検討するためには,必ず判断しなければならない事実である。
   また,②の事実も,派遣先に過ぎない被控訴人PEDJには,本来,社外工(派遣労働者)に教育を行い,その人員配置を決定する等の権限はない。にもかかわらず,被控訴人PEDJが社外工(派遣労働者)に教育を行い,その人員配置を決定する等していたという事実は,被控訴人PEDJが社外工(派遣労働者)に対して,雇用主としての権限を行使していたことを裏付ける事実であり,かかる実態に鑑みるならば黙示の労働契約が成立していることを肯定する事実である。それゆえ,控訴人の主張の成否を検討するためには,必ず判断しなければならない事実である。
   それゆえ,原判決が,黙示の労働契約の成立を否定しながら,一方で,①,②の各事実について何ら判断をしていないことは,極めて不当であり,控訴審においては,①,②の事実について判断がなされるべきである。
   以下,①,②の事実が認められることについて改めて述べる。
(2)業務請負から派遣への切替における労働実態に変化がなかったこと
   原告準備書面(7)22,23頁においても指摘したところであるが,確かに,形式上,2005(平成17)年2月21日から2006(平成18)年10月末までは業務請負契約が締結され,同年11月1日以降は労働者派遣契約が締結された。
   しかし,実際には,2006(平成18)年11月1日の前後において,控訴人ら社外工に対する被控訴人PEDJ正社員からの指揮命令及び控訴人ら社外工の業務の内容には何らの変化もなかった。
   このことは,契約書の書式が変わると言われたぐらいであったという控訴人供述(河本25頁),勤務時間管理表(甲31)の扱いについて「変わりなかったですね。」(河本17頁)という供述,5Sエリア別活動計画表(甲25の1ないし3)について,「業務請負」の期間であった2006(平成18)年4月から「派遣」に切り替えられたとされる同年11月を経て2007(平成19)年3月まで,全く同じ書式が使用されていたこと(PB氏19,20頁),等の事実によって裏付けられている。
   さらに,被控訴人PEDJ正社員であるPB氏証人自身も,2006(平成18)年11月1日の前後において,作業自体について特段変わっていない,と証言しており(PB氏16頁),かかる点からも,何らの変化もなかったことは明らかである。
   なお,控訴人は,労働契約書(労働者派遣就業条件明示書)(乙B2の1ないし10)について,最初の1枚については,2006(平成18)年11月1日に署名したものの,それ以外については,2008(平成20)年2月ころにまとめて署名している(河本25頁)。この事実は,業務請負から派遣への切替が形式的なものでしかなかったことを示しており,それゆえ,上記書類は,控訴人と被控訴人ケイテムの間に適法な派遣労働契約が成立していたことの根拠とはなり得ない。
   また,派遣元管理台帳(乙B5の8)と給与明細書(甲4の1)を比較すれば明らかなとおり,社会保険への加入の有無に関して,派遣元管理台帳(乙B5の8)「社会保険」欄の記載は誤っている。この事実は,被控訴人ケイテムが派遣元管理台帳の記載内容について極めて杜撰であったことを示しており,ひいては,控訴人と被控訴人ケイテムとの間の派遣労働契約が形式的なものでしかなかったこと,実質的には被控訴人PEDJこそが控訴人の雇用主であったことを意味するといえる。
(3)請負化計画において被控訴人PEDJが雇用主としての権限を行使していたこと
 ア 原告準備書面(7)23,24頁においても指摘したところであるが,被控訴人PEDJは,2008(平成20)年2月頃,控訴人ら社外工が担当している業務について請負化計画を立案し,リーダーを養成したり,人員配置・スケジュールの案を作成したりした上,その計画を実施した(甲30の11~17,甲32,甲33~甲37)。
 イ 具体的には,まず,社外工であるSA氏が請負化に伴う管理業務を担当できるようにするために,被控訴人PEDJ正社員PC氏が社外工SA氏を教育訓練していた(甲30の11~17)。
   このような教育訓練は,本来派遣先ができることではなく,被控訴人PEDJが雇用主であるからこそできることである。
 ウ 控訴人が勤務していた成形班では,2008(平成20)年11月ころ,社外工を被控訴人PEDJ正社員に置き換える計画が立てられていた。甲32は,その計画案が記載されたものである。
   甲32によれば,被控訴人PEDJが派遣労働者を正社員に置き換えるにあたり,名前と時期まで決定していたことが分かる。
   このような決定も,本来派遣先ができることではなく,被控訴人PEDJが雇用主であるからこそできることである。
 エ 甲33は,被控訴人PEDJの請負化計画の中で作成されたものであり,マップ中の囲み部分がそれぞれ横型とハイサイクル班にあたり,ここを請負化する計画があった。例えば,SB氏とSC氏は組立係の派遣労働者であるが,ハイサイクル成形班へ配置転換することになっている。
   このような配置転換も,本来派遣先ができることではなく,被控訴人PEDJが雇用主であるからこそできることである。
 オ 甲34の1~7は,社外工の請負化後の成形工程における人員配置案である。個人名のうち,PD氏(甲34の5~7 成形全体リーダー)及びPE氏(甲34の6 サブリーダー)以外は,すべて派遣労働者である。
   控訴人の個人別課題と要望(甲34の2等)には,「交替性は出来ない,日勤でもいいが,夜勤並みの手当が欲しい,金型切替もする為(ケイテムと相談)」と記載されている。これは,控訴人が被控訴人PEDJ正社員であるPB氏から,今後請負化を計画しているが,それにあたっての要望を聞きたいと問われ,「昼夜交替制は肉体的にきついことからできない,これまで夜勤をしていたがサブリーダーや金型切替を行うよう打診されており,条件があえば日勤に応じてもよい,しかし具体的な条件明示がなく,賃金が低下しなければよい。請負会社になるケイテムと相談して決めて欲しい」旨返答したことを記載したものである。
   このような人員配置の決定,その決定のための当事者に対する聞き取り等もまた,本来派遣先ができることではなく,被控訴人PEDJが雇用主であるからこそできることである。
 カ 甲35の「請負化人材育成計画表」に,「対応者」として記載されている「PC氏」「PF氏」「PG氏」「PH氏」は,すべて被控訴人PEDJ正社員である。
   甲35から,被控訴人PEDJが請負化計画の中で派遣労働者の中から人材を育成する計画をたて,実績もチェックしていたことがわかる。
   このような人材育成,実績のチェックもまた,本来派遣先ができることではなく,被控訴人PEDJが雇用主であるからこそできることである。
 キ 甲36の「請負化スケジュール(案)」の№3「金型切換指導と進捗確認まとめ(SD氏,SE氏,SA氏の確認)」「新金型切換者教育」欄における「SD氏」「SE氏」「SA氏」「河本」「SF氏」は,いずれも派遣労働者である。
   甲36から,被控訴人PEDJが,「金型切換」業務を派遣労働者に担当させるため,「金型切換」業務についての教育・指導を被控訴人PEDJ正社員が行う予定であることがわかる。
   このような教育・指導もまた,本来派遣先ができることではなく,被控訴人PEDJが雇用主であるからこそできることである。
 ク 甲37の1~44は,入力デバイス製造チームの人員名簿である。
   これによれば,2007(平成19)年11月に,社外工のSB氏,SA氏は組立係から成形班に異動している(甲37の31,32)。そして,この異動は請負化計画どおりの異動である。すなわち,甲33において,組立係の社外工SB氏はハイサイクル成形に異動する計画となっているが,そのとおりに異動している。また,甲34の1~7によれば,SA氏,SB氏は,成形班内での立場は請負化計画案の作成時期によって異なるものの,成形班に異動することになっており,実際に,そのとおりに異動している。
   同様に,2008(平成20)年4月に,社外工SC氏が組立係から成形班に異動している(甲37の36,37)。この異動は,甲33の組立係の社外工SC氏がハイサイクル成形に異動する計画どおりの異動であり,また,2008(平成20)年1月24日の請負化計画案(甲34の1)どおりの異動でもある。
   以上から,被控訴人PEDJの作成した請負化計画どおりに,社外工の異動がなされていることがわかる。
   そして,このような社外工の異動もまた,本来派遣先ができることではなく,被控訴人PEDJが雇用主であるからこそできることである。
 ケ 以上から,被控訴人PEDJが請負化計画を進行させるにあたり,派遣労働者を特定して,教育訓練,配置転換のための聞き取り,配置転換,指導等を行い,請負化後には,教育によって技能を身につけた特定の派遣労働者に金型業務を担当させようとしていたことがわかる。
   そもそも,仮に控訴人ら社外工が派遣労働者であり,今後業務請負における請負労働者として働くということであれば,教育訓練,配置転換,指導,担当する業務を決めること,誰をリーダーとして,どのように人員を配置するか等は雇用主である被控訴人ケイテムが決めるべきことであって,そもそも被控訴人PEDJが決定し得ない事項である。
   にもかかわらず,被控訴人PEDJが,派遣社員の請負化計画を作成して,前記のようなことをしていたという事実は,被控訴人PEDJが控訴人ら社外工に対して雇用主としての権限を行使していた事実を裏付けるものである。
(4)まとめ
   以上から,前記①,②の事実が認められる。
   そして,①,②の事実が認められるということは,本件において,被控訴人PEDJこそが控訴人ら社外工の雇用主であり,被控訴人PEDJと社外工との間に黙示の労働契約が成立していることを示している。
第3 控訴人と被控訴人PEDJとの黙示の労働契約の成立
1 原判決の誤り
原判決は,黙示の労働契約の成否に関して,被控訴人PEDJが控訴人の採用に関与していたと認められないこと,控訴人の給与等の金額を被控訴人PEDJが事実上決定していたとは認められないこと,被控訴人ケイテムは控訴人らに対し入退社の確認,勤務管理,給与計算,社会保険被保険者資格得喪等の基本的な雇用者としての管理を行っていたことを総合勘案すると,黙示的な労働契約が成立していたとは認められないとし,また,控訴人と被控訴人ケイテムとの間で期間雇用契約書により労働契約を締結した後就労していることからも黙示の労働契約が成立していたとは認められないとしている(原判決27,28頁)。
しかしながら,第2で述べたとおり,原判決には事実認定における誤りがあるし,法的判断自体が誤っている。以下,この点を敷衍して主張する。
2 黙示の労働契約論について
(1)労働契約も他の私法上の契約と同様に当事者間の明示の合意によって締結されるばかりでなく,黙示の合意によっても成立し得るところ,労働契約の本質は使用者が労働者を指揮命令及び監督し,労働者が賃金の支払を受けて労務を提供することにあるから,黙示の合意により労働契約が成立したかどうかは,当該労務供給形態の具体的実態により両者間に事実上の使用従属関係,労務提供関係,賃金支払関係があるかどうか,この関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断すべきである(松下PDP事件平成20年4月25日大阪高裁判決・安田病院事件平成10年2月18日判決)。
この判断基準は,松下PDP事件平成21年12月18日最高裁判決でも否定されていないのであり,これを基準にその成否を判断すべきである。
(2)具体的な判断手法として,同最高裁判決は,当該具体的事案について,「前記事実関係等によれば,上告人はC(派遣元)による被上告人の採用に関与していたとは認められないというのであり,被上告人がCから支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず,かえって,Cは,被上告人に本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど,配置を含む被上告人の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって,前記事実関係等に現れたその他の事情を総合しても,平成17年7月20日までの間に上告人と被上告人との間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない。」と判示した。
すなわち,最高裁は,一般的な基準を定立したものではなく,あくまで当該事案について,採用への関与,給与等の額の事実上の決定,派遣元が具体的な就業態様を一定の限度で決定しうる地位にあったた否かを検討して判断した事例判断に過ぎないのである。
(3)したがって,黙示の労働契約成立の判断にあたっては,前記の基準をもとにしつつ,具体的な判断手法については松下PDP最高裁判決も参考することが必要である。
ところが,原判決は,まず,最高裁判決が問題にしている派遣元が具体的な就業態様を一定の限度で決定しうる地位にあったか否かについては全く判断することなく,黙示の労働契約を否定している。原判決はその代わりに派遣元が「入退社の確認」等を行っていたとの事実を挙げているが,このような事実は最高裁も問題にしていないのであって,原判決は最高裁判決の判断から逸脱している。
また,原判決は,控訴人が被控訴人ケイテムとの間で期間雇用契約書により労働契約を締結してその後就労を開始したという事実をもって黙示的な労働契約の成立を否定しているが,最高裁の判断でも,形式的な契約書の記載内容がどうなっているかは問題とされていないのである。そもそも黙示の労働契約論は,形式が異なっている場合においても,労務供給形態の具体的実態から客観的に推認される黙示の意思の合致を検討するものであり形式的な契約形態が異なることはむしろ前提にされている考え方である。原判決のいうように,契約書類のみでその成立が否定されるのであれば,同契約論はそもそも成り立たないし,最高裁も前記のような判断をする必要はなかったはずである。よって,この点からも原判決の判断は最高裁判決の判断を逸脱するものである。
さらに,最高裁判決は,指揮命令権の所在については問題にしていないが,これは同事案においては,派遣労働と認定され,これを覆す特段の事情もないと判断されたためであるに過ぎない。同判決によれば,特段の事情がある場合には労働者派遣契約・派遣労働契約はともに無効になるので,事実上の指揮命令が黙示の労働契約を基礎づける事実となるのである。また,労働者派遣契約(労働者供給契約)の内容を逸脱する形で指揮命令権が行使されている場合もまた,事実上の指揮命令権の行使となるのだから,黙示の労働契約の成立を認める要素となるはずである。しかしながら,原判決は,最高裁判決を引用するのみで,特段の事情の存否について何らの判断もしていないし,被控訴人PEDJの控訴人に対する指揮命令権の行使が,被控訴人間の労働者供給契約の範囲に止まるものなのか否かについても検討していない。この点にも原判決には理由不備の違法があるというべきである。
3 本件における黙示の労働契約の成立について
(1)原判決における事実認定の誤りを第2で指摘したが,本件において事実関係を正しくみれば,控訴人と被控訴人PEDJとの間には黙示の労働契約が成立していると認められる。
ア 採用への関与
 控訴人の供述から明らかなように,被控訴人PEDJが採用を了解して就労が開始している。一方,被控訴人ケイテムは,控訴人に対して,試験や経歴・技能に関しての質問もしておらず,人物評価に至っては全く行っていない。
 実際,控訴人と被控訴人ケイテムとの間には期間雇用契約書が作成されているが,この契約書が作成されたのは,控訴人が就労を開始し,ロッカーに入った後であるし,具体的な業務内容やシフトの内容等は被控訴人PEDJの従業員であるPA氏から聞いている。機械操作などに関する教育・研修も被控訴人PEDJが行っている。
 このように,被控訴人ケイテムは形式的に契約書を作成した以外には,控訴人の就労には全く無関心であり,控訴人を就労させるかどうか,どのような業務に就かせるかなどは被控訴人PEDJにおいて決定していたことが明らかである。
 よって,被控訴人PEDJが控訴人の採用に関与していると認められる。
イ 賃金の事実上の決定
 被控訴人間には業務請負契約及び業務請負覚書(乙A4,5)が形式上締結されているとされているが,この契約に記載されている業務内容は控訴人が従事していた業務ではなく,また,単価によって請負代金を計算することになっているが,控訴人が製造した検知スイッチの種類・個数を特定して把握するなどは行われていなかった。そもそも,被控訴人PEDJの工場では同社の正社員と控訴人ら社外工として扱われている労働者が混在して就労していたため,社外工が製造した種類・個数を個別に把握することなど不可能であった。したがって,被控訴人PEDJから被控訴人ケイテムに支払われている金員は,請負契約に基づく対価とはいえないものなのである。
 そして,控訴人ら社外工については,被控訴人PEDJが勤務時間管理表に勤務時間を記入させ,これを回収して管理していたのであって,それ以外に控訴人らの業務内容,業務量について客観的に計測する指標は何もなく,また労働時間の対価としてしか,被控訴人PEDJが被控訴人ケイテムに支払う金員の根拠もなかったのである。
 したがって,被控訴人PEDJが被控訴人ケイテムを通じて控訴人に支払ってきた賃金は,被控訴人PEDJが事実上決定していたというべきである。
なお,この事実をさらに明確にするため,控訴人としては,被控訴人PEDJに対して,同社が被控訴人ケイテムに支払った金員の明細及びその計算根拠となる資料の提出を求めるよう,裁判所に対し釈明を申し立てる。
ウ 指揮命令・労務管理
 被控訴人PEDJは,原判決も認めるように,控訴人に対する指揮命令を行ってきたことはもとより,シフト変更等の配置転換や労務管理,清掃業務の指示なども含め控訴人の就業態様を決定・変更してきた。一方,被控訴人ケイテムは,具体的な就業態様を決定したことは一度もなかった。
 また,被控訴人PEDJが控訴人に対して行った指揮命令の範囲は,被控訴人ら間の請負契約ないし労働者派遣契約の内容をはるかに超え,朝礼出席,清掃業務,研修・教育等自らの従業員に対するのと同様の範囲に及んでいた。また,被控訴人PEDJが計画した請負化計画も,控訴人ら社外工を自らの従業員であるかのようにして教育し,リーダーを決定し,その時期を追って請負化を実施するというものであった。
 このように,被控訴人PEDJが控訴人に対して行った指揮命令・労務管理は,被控訴人間が締結したとする業務請負契約の範囲を大幅に超えるものであり,仮にこれが違法な派遣労働と評価されるとしても,労働者派遣契約として派遣先が権限を行使できる範囲を大幅に超えている。
このような事実は,被控訴人PEDJの控訴人に対する明示的な契約に基づかない事実上の指揮命令権の行使を基礎づけている。
(2)以上のように,被控訴人PEDJは,控訴人の採用に関与し,事実上賃金を決定し,かつ労働者供給契約の範囲を超えて自らの従業員と同様に控訴人を処遇し,控訴人も何らの制限もなく被控訴人PEDJの指揮命令に応じて労務提供を行ってきたのである。
本件事案の場合,被控訴人PEDJと控訴人との間には,事実上の使用従属関係,労務提供関係,賃金支払関係があるといえるから,この関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるというべきである。
したがって,被控訴人PEDJと控訴人との間には,黙示的な労働契約が成立しているというべきである。
4 被控訴人間の労働者供給契約は無効である。
(1)前記のように,本件においては,被控訴人間の労働者供給契約が無効であるか否かは黙示の労働契約の成否に関わりない。
ただ,同契約が無効である場合は,被控訴人PEDJが控訴人に行っていた指揮命令や被控訴人ケイテムを介しての賃金の支払いは,同契約に基づくものとはいえない事実上のものとなるので,これらの事実も被控訴人PEDJと控訴人との間の黙示的な労働契約を基礎づけることになる。
(2)原判決の判断の誤りと判断回避
この点,原判決は,松下PDP事件最高裁判決を引用し,「特段の事情がない限り,そのことだけ(注:法的に請負契約と評価できないこと)によっては派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効になることはない」と判示している(原判決28頁)。
しかしながら,控訴人はこのような主張をしてはいないし,むしろ被控訴人ら間の労働者供給契約の有効・無効を問題としているのである。原判決の上記判示は最高裁判決があったから単に記載したというに過ぎないものである。
また,仮に控訴人の主張に対する判断として記述されているものであれば,最高裁判決が示した「特段の事情」について判断されるべきであるが,前記のとおり,原判決にはその判断が欠落している。控訴人は,原告準備書面(7)25頁において,被控訴人PEDJが違法を熟知しながらあえて脱法目的で偽装請負の形態をとってきたことを「特段の事情」と主張しており,原判決が被控訴人らの違法の認識を肯定する判示(原判決32頁)をしていながら,「特段の事情」の有無の判断を避けているのも不可解といえる。
原判決は,控訴人の主張も,最高裁判決の趣旨も全く理解していないと言わざるを得ない。
(3)被控訴人らの行為の違法無効
ア 被控訴人らが作出した外観は,控訴人を被控訴人ケイテムの労働者として,被控訴人PEDJの指揮命令のもと就労させるというものであった。このような外観を作出しようとしたのは,被控訴人PEDJが控訴人を正社員よりも安く就労させるためであり,また,被控訴人PEDJの都合で自由に首切りを行えるようにするためである。
イ しかしながら,被控訴人らの行為は,労働者派遣法の制度趣旨及び規制事項を全く無視する違法なものである。
すなわち,被控訴人らは当初請負を偽装していたが,この行為が労働者派遣法26条等に違反することは明らかである。また,被控訴人らは,2006(平成18)年11月には労働者派遣契約を締結したとするが,控訴人に対する説明もなく,同意も求めることなく(同法32条2項)行われたものであり,労働者派遣が成立する余地はないというべきである。
また,控訴人の就労を労働者派遣とみたとしても,既に派遣受入可能期間を経過しており,同法40条の2違反の状態であった。
しかも,原判決の判示によっても,被控訴人らはこれが違法であることを認識しながら(原判決32頁)違法な外観を作出したのである。
このように,被控訴人らは請負ないし労働者派遣の外観を作出しようしているものの,その法規制を故意に無視する形で控訴人の就労を受け入れているのである。このことは,労働者派遣という形式が,被控訴人ら被告にとっても単なる形式に過ぎないものであったことを物語るというべきである。
ウ そして,本件のような違法な派遣労働契約は無効というべきである。
なぜなら,法規制に従う意思が全くなく,脱法的にこれを利用してきた被控訴人PEDJが,自らの責任を免れるためにその法形式を主張することは許されないというべきで,労働者派遣が,罰則を持って全面的に禁止されてきた労働者供給事業(職安法44条)及び中間搾取の禁止(労基法6条)の例外として認められた経緯にも鑑みれば,その脱法行為には強度の違法性があり,民法90条の公序良俗に反するというべきだからである。
なお,この点,松下PDP事件平成21年12月18日最高裁判決が一定の判断を示しているが,その当否はさておき,同判決は,派遣労働者を保護する必要性なども考慮して,違法な労働者派遣でも派遣元と派遣労働者との雇用契約が無効になることはないと判示しているに過ぎず,派遣元と派遣先との労働者派遣契約の有効性には言及していない。労働者派遣契約については派遣労働者の保護を考える必要がないことからすれば,同判決によっても無効と判断されるべきである。
また,仮にそう解釈できないとしても,本件では,偽装した請負契約や労働者派遣契約の範囲を大幅に超えて就労させてきた事案であり,労働者の同意も得ずに労働者派遣契約に切り換えたなど被控訴人らの法規範無視の態度は同種の事案と比較しても際だっている。このような事実からすれば,違法の程度は極めて大きく,同判決にいう「特段の事情」にあたるというべきである。
(4)まとめ
   以上より,被控訴人ら間の労働者供給契約は無効であり,被控訴人PEDJが控訴人に行っていた指揮命令や被控訴人ケイテムを介しての賃金の支払いは,同契約に基づくものとはいえないというべきである。
そして,事実上,被控訴人PEDJの指揮命令に応じて控訴人が労務を提供し,その労働の対価として報酬が被控訴人ケイテムを介して支払われているという就労実態は,黙示的な労働契約の成立をさらに補強するというべきである。
 5 被控訴人らは,違法な契約も有効性,黙示の労働契約の不成立を主張できないー判断回避
   控訴人は,原告準備書面(7)27頁において,控訴人らの控訴人ら労働者に対する適正労働力利用義務違反を指摘した上で,自ら悪質な違法行為を意図的に行ってきた被控訴人らが請負契約ないし労働者派遣契約の有効性及び控訴人と被控訴人PEDJ間の黙示の労働契約の不成立を主張することは,信義則ないし禁反言の原則(民法第1条2項)から許されない,と主張していた。
   しかしながら,原判決は,争点整理部分に全くふれないばかりか,裁判所の判断部分においても一切検討がなされていない。
   原判決は,被控訴人らの違法の認識を肯定する判示(原判決32頁)をしており,控訴審においては,万一控訴人と被控訴人PEDJ間の黙示の労働契約の成立が認められないとの認定になったとしても上記主張に対する判断を回避されないよう求めるものである。
第4 控訴人と被控訴人PEDJとの労働者派遣法40条の4による労働契約の成立
1 原判決の誤り
原判決は,労働者派遣法の規定を挙げて,同法は40条の4の規定の実効性を確保するためにあくまで間接的な方法で労働契約締結の申込みを促すという制度を採用しているに止まるとの前提の下,控訴人の主張は労働者派遣法の解釈論としては採用できず,さらに本件是正指導前に被控訴人PEDJは直接雇用の申し込みをしておらず,本件是正指導後の被控訴人PEDJによる直接雇用の申込みに控訴人が承諾していないとして,労働契約の成立を否定した(原判決29ないし31頁)。
2 労働者派遣法解釈の誤り
   原告準備書面(7)で主張したように,労働者派遣法の制定・改正の趣旨や40条の4の規定文言等からすれば被控訴人PEDJには控訴人に対する直接雇用申込義務違反が認められると解釈されるべきであり,この点で原判決の法解釈は条文を形式的一面的にとらえた誤った解釈と指摘せざるを得ない。
 3 控訴人主張の不正確な理解
  また,控訴人は,単に労働者派遣法40条の4の規定だけを根拠に労働契約の成立を主張しているものではない。派遣先が,労働者派遣契約による授権がない中で派遣労働者の指揮命令を継続している状態において,派遣労働者と派遣先企業との法律関係をどう解釈すべきかを問題にしているのであり,この点から「派遣労働者と派遣先との雇用関係が成立していると推定できる,訴訟で派遣労働者は雇用関係の確認を行うことができる」とする厚労省職業安定局作成の「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(甲14)も引用しているのである。行政解釈をあえて否定する法律解釈の丁寧な判示がなされなければならず,理由不備も認められる。
   よって,原判決の法解釈は,この点でも控訴人の主張を正確に理解した上でのものとはいえない。
 4 本件是正指導後の労働契約の成立
   この点は第5で詳述するが,本件是正指導後の2009(平成21)年1月16日,被控訴人PEDJが控訴人らに対し直接雇用の申し込みをし,これに対し同年1月22日,控訴人は被控訴人PEDJに対し労働条件に異議を留めつつこれを承諾する意思を被控訴人ケイテムを通じて被控訴人PEDJに表示しているので,労働契約が成立している。
第5 控訴人と被控訴人PEDJとの間の2009(平成21)年1月22日における労働契約の成立(予備的主張。控訴審での新主張)
1 控訴人と被控訴人PEDJとの明示の労働契約の成立
  控訴人と被控訴人PEDJとの間には,前記のとおり黙示的に労働契約が成立しており,また,仮にそうでないとしても労働者派遣法40条の4の規定により労働契約が成立しているというべきである。
  しかし,万一これらが認められないとしても,控訴人は被控訴人PEDJの直接雇用の申入れに対し,2009(平成21)年1月22日にこれを承諾する意思表示をしているから,明示的な合意により労働契約は成立している。
2 事実の経過
(1)被控訴人らは,2008(平成20)年2月頃から,控訴人ら社外工について請負化を計画するようになったが,同年10月24日,被控訴人ケイテムは,突如,請負化中止と人員削減を発表した(甲5)。
この動きを不審に思った控訴人は,同年10月下旬頃,福井労働局職業安定課に電話連絡にて同局への調査を求めた。その結果,同年12月18日,福井労働局は,被控訴人らに労働者派遣法違反があることを認定し,同人らの雇用の安定を図る措置をとることを前提に違法行為を是正すべき指導を行った。
(2)2009(平成21)年1月16日,被控訴人PEDJが控訴人ら社外工に対し説明会を行い,福井労働局の指導を受けて,①被控訴人PEDJでの直接雇用(アルバイト・時給810円),②パナソニックグループの会社であるパナソニックエクセルプロダクツ株式会社への採用,③被控訴人ケイテム残留,の3つの選択肢を提示した。
その際の提示内容について,文書は交付されなかったが,①については,概ね乙A3号証のような内容が,説明会の席上でプロジェクターを用いて映し出され,説明された。
また,今後の手続について,被控訴人PEDJは,同年1月23日までにどれを選択するか被控訴人ケイテムに回答するよう求めた。
(3)同年1月22日,控訴人は被控訴人PEDJの社員として直接雇用を受ける承諾の意思を被控訴人ケイテムのKB氏に表示し(但し,労働条件については異議を留めた),KB氏は被控訴人PEDJにこれを報告した。
(4)同年1月29日,控訴人が加入する地域労働組合つるが他2名(以下,便宜上まとめて「組合」という)は,被控訴人PEDJに対し団体交渉を申入れ,控訴人について「正社員として雇用すること」,控訴人の労働条件について「正規社員と同様の労働条件とすること」を求めた(甲9,10)。
しかし,被控訴人PEDJは,控訴人とは雇用関係がなく団体交渉には応じないとの対応をとった。
(5)同年2月13日,被控訴人ケイテムは,社外工に対し,同年3月13日付で被控訴人PEDJから撤退するので今後の処遇についてアンケートに回答するよう求めた(甲8)が,控訴人は,被控訴人PEDJに直接雇用されるべきとして回答を拒否した。
(6)同年2月20日,組合は改めて団体交渉を申し入れた。その際,組合は,正社員としての雇用を要求することのほか,当時,被控訴人PEDJが提示していた直接雇用の条件が不十分であり,その労働条件の詳細を具体的に明らかにすることを求めた(甲11,12)。
しかし,これに対しても,被控訴人PEDJは,控訴人とは雇用関係がなく団体交渉には応じないとの対応をとった。
(7)同年3月4日,被控訴人PEDJと組合との間で話し合いがもたれた。
その際,被控訴人PEDJ担当者は,控訴人の雇用条件について再度提示すると述べ,控訴人に対し,他の選択肢も含め選択するように求めた。
組合は,雇用条件について文書で提出すべきことを求めたが,これについて被控訴人PEDJは検討すると回答した。
(8)その後,控訴人は,同月25日,組合を通じて電話で被控訴人PEDJに対し,改めて①の選択肢を異議を留めて承諾すると伝え,契約書の提出を求めた。
(9)さらに,被控訴人PEDJ代理人から控訴人代理人に,控訴人の被控訴人PEDJでの雇用・就労条件について協議したい旨の連絡があり,同年3月30日,控訴人代理人は,「当面は貴社からの条件に対し異議を留めた上で,就労する意思がある」ことを通知するとともに,就労条件については今後協議したいとの提案を行った(同年3月31日に文書で通知。乙A10)。
   (以上 河本供述,甲41)。
3 労働契約成立の要件ー必要な合意の具体性
労働契約法6条によれば,労働契約の成立に必要な合意は,当該労働者が当該使用者の指揮命令に従って労働に従事し,当該使用者が当該労働者の労働に対して当該労働に対する報酬を支払うという合意であり,この合意は抽象的な内容のものであり,労働の種類・内容や賃金の額・計算方法に関する具体的な合意であることを要しない(菅野第9版77頁等)。
4 1月22日の控訴人の承諾の意思表示による労働契約の成立
(1)以上の経過であるから,被控訴人PEDJは,2009(平成21)年1月16日,控訴人に対し,乙A3号証を条件とする雇用契約の申込みを行い,控訴人は,同年1月22日,これを承諾した(但し,労働条件については今後協議するとの意見を留めた上で)のであるから,控訴人と被控訴人PEDJとの間では,控訴人が被控訴人PEDJの指揮命令に従って労働に従事し,被控訴人PEDJが控訴人の労働に対して報酬を支払う合意は認められ,契約開始日を同年4月1日とする労働契約が成立したというべきである。
(2)なお,成立する労働契約上の労働条件については,同年1月16日の説明会での説明内容の全部(一部引用している乙A3号証の全体)の提出を待って主張する予定である。控訴人は,被控訴人PEDJに対し,同書証の全部の提出を求めるよう,裁判所に対し釈明を申し立てる。
第6 被控訴人らの不法行為責任の判断の誤り
1 労働契約の成立を前提とした不法行為責任の否定
 原判決は,労働契約が成立することを前提とする不法行為の成立は,契約関係がないと判断した以上成立の余地はないと判示した(原判決31頁)が,控訴人と被控訴人PEDJとの間に労働契約が成立していることは第3ないし第5で述べたとおりであり,これを前提とした原判決は誤りである。
 にもかかわらず,控訴人を職場から排除するために派遣契約を解消し,控訴人を職場から排除した被控訴人らの行為は共同不法行為が成立するものであって,この点を全く検討しない原判決は誤りである。
2 労働契約の成立を前提にしない不法行為責任に関する原判決の判断
(1)被控訴人らの故意の労働者派遣法違反行為を認定した原判決
原判決は,「原告の就労については労働者派遣契約が締結された平成18年11月1日までは,労働者派遣法による法規制が無視されるという違法な状態,それ以後も就業可能年数の制限などに関する法規制に違反する状態が続いていたものと認められる」とし,「被告らが労働者派遣法に違反する状態にあることを知りながら(被告らの企業規模,業務内容に照らせば,原告の就業が労働者派遣法に違反するものであることを認識していたものと容易に推認できる。)」,すなわち被控訴人らが労働者派遣法違反を認識していたことを認定し,そのことが控訴人に対する不法行為を構成するかについて検討する必要があるとの判断を示した(32頁)。
(2)労働者派遣法の性質と労働者の権利
原判決が被控訴人の法違反行為を認定し,違法性の認識もあったことを明確に認定したことは,当然とはいえ重要な判断であった。
ところが,原判決は被控訴人らの行為の違法性をもっぱら労働者派遣法違反のみであるという前提で,労働者派遣法が行政取締法規であり,労働者の利益を間接的に守ろうとしているに止まるとして「労働者派遣法が守ろうとしている派遣労働者の利益は,派遣元及び派遣先の各事業主の違反行為につき,不法行為法上の違法性まで直ちに根拠付けるものとは言え」(原判決33頁)ないとして,労働者派遣法違反のみでは不法行為の成立はないとした。
(3)労働者派遣法40条の4の解釈
また,原判決は,労働者派遣法40条の4の規定について「派遣先は,この雇用契約の申込みをするか否かを自由に選択できる」「申し込む際の契約内容(労働条件)についても自由に選択できること」との解釈を示し,その解釈を根拠として,「派遣労働者の地位は派遣先の判断によって労働契約の申込みを受けるかもしれないというものに止まる」として,「労働者の利益は上記条項の違反につき不法行為を構成するほどの法的利益とまでは評価することはできない」(原判決33頁)として,直接雇用申込み義務の存在を認識しているとの前提に立ちながらも,被控訴人らの不法行為責任を否定した。
(4)解雇の違法性
さらに,原判決は,被控訴人ケイテムの解雇行為も控訴人に対する被告PEDJの労働条件の提示が控訴人を排除することを意図したものではないとの前提で,控訴人がこれを承諾しなかったのだから労働契約の終了について不法行為責任が生じる余地はないとの判断を示した(原判決34頁)。
(5)原判決による不法行為責任全面否定
   結局のところ,被控訴人らの行為(労働者派遣法違反の状態で就労をさせたこと,労働者派遣法に反して契約を締結することで,本来控訴人に対して負うべき直接雇用申込義務を果たさなかったこと,違法行為の追及後,労働者派遣契約を解除して直接雇用を求める控訴人の要求を拒否し,労働者派遣契約を解消することで,控訴人を就労場所から排除した行為)のいずれについても違法性がないとして,すべての行為について不法行為責任を否定した(原判決34頁)。
3 不法行為責任に関する原判決の判断の誤り
 原判決の判断は,いずれの判断も容認できない間違いを犯している。
(1)行政取締法規違反と不法行為
原判決は,行政取締法規違反が不法行為法上の違法性を直ちに構成しないと判断している点で誤っている。控訴人は,行政取締法規か否かによって不法行為法上の違法性が直ちに肯定されるという立場にたつものではない。しかし,原判決のごとく,間接的な規制でしかないことを理由に不法行為を構成することを否定するとの判断は誤っていると言わざるを得ない。
既に原告準備書面(4)で主張したように,労働者派遣法の個々の規定違反のみならず労働者派遣法の取締目的とその効果を検討したうえで,それが個々の労働者のどのような法益を保障するものかを検討すること抜きに私法上の違法性にどのような影響を及ぼすのかは判断出来ないはずである。かかる検討を全くしないで取締法規による間接的規制であることのみを理由に不法行為上の違法性を否定する判断方法は法解釈として誤りである。
(2)労働者派遣法40条の4の解釈の誤り
さらに,原判決は,労働者派遣法40条の4による直接雇用の申込義務について派遣先使用者が労働契約の申込をする自由や申込内容をどのように決定するかという自由を否定していないという解釈も明らかな誤りである。原告準備書面(7)で主張したとおり,直接雇用申込義務は,派遣労働者に対する契約上私法上の義務である。
(3)本件労働契約終了時の事実認定上の誤りと判断遺漏
 また,原判決は,本件契約終了の理由をもっぱら控訴人が労働条件の提示を承諾しなかったこと等を理由にして不法行為を否定しているが,事実認定として誤っており,本件契約終了が不当労働行為であるとの点の判断も遺漏している。
以上のとおり不法行為をめぐる原判決の判断は多くの誤りを含んだものであり,容認することは出来ない。控訴審において誤りを正すべきである。
4 行政取締法規違反は不法行為の違法性を根拠づける
 原判決は,控訴人が労働者派遣法違反であることだけを理由に不法行為上の違法性の主張を求めているかのように整理し,取締法規違反が直ちに不法行為を構成するものではないとしている。
 しかし,控訴人は,そもそも行政取締法規違反のみをもって,不法行為を主張していない。そもそも労働者派遣法違反行為があり,その行為が長期にわたって行われていたという事だけを根拠に不法行為の成立を主張をしているものではない。そして,行政取締法規違反が,私法上の契約の効果や不法行為に基づく損害賠償請求の違法性の根拠として,全く影響を与えないとする原判決は,誤っている。
 行政取締法規とは,まず行為を取り締まることを通じて法秩序を維持し,原判決自身が述べるように,行為者に対する制裁措置や行政指導などを実施することで,間接的に直接的雇用関係にない,労働者の権利を保護する法規である。行政取締法規の性質上,取締法規に直接保護される労働者の権利規定がないことは当然といえば当然である。
 例えば,食品衛生法が,食品の安全を確保し危険な食品の流通を規制して国民の生命身体の安全を確保するのと同様,労働者派遣法が派遣先事業主及び派遣元事業主を規制して労働基準法をはじめとする労働法秩序を守ることを目的としているものである。 
 そして,職業安定法及び労働者派遣法は,間接雇用を禁じているから,この法違反の事実がある場合,それをもって直ちに違法無効というわけではないものの,取締法規違反に過ぎないから私法上の効果が一切ないというものではなく,法違反の態様によっては,契約の効力に影響を及ぼす場合もありうるし,また不法行為上の違法性の根拠となる。
 そもそも法秩序を統一的に解釈し,当事者の公正な関係を築く意思解釈をすることは裁判所のみが担う役割であるから,行政取締法規違反の場合でも,それが公の秩序に関する規定に反する行為(民法91条)の外,社会の基本秩序に反する行為(民法90条)は私法上も無効とする場合があるし,不法行為法上の違法性を根拠づけるのもまた当然である。
 例えば,行政取締法規に違反する行為があった場合,そのことのみをもって,契約行為が私法上,無効となるか否かという抽象的な議論ではなく,当該取締法規の目的に照らし,当該違反者の行為の違法性(権利侵害)について,当該行為者の行為を有効とするのが目的に適うのかという観点に基づき,総合的に判断して当該行為が無効となるか否かを判断するべきである。(四宮和夫「民法総則」)。判例も,食品衛生法に反して有毒な食品を販売した場合,当該取引を無効とする場合(最判昭和39年1月23日・民集18ー1ー37)がある一方で,食品衛生法による営業許可を受けていないとしても,同法は単なる取締法規にすぎないから,取引は無効ではないと判断される場合(最判昭35年3月18日・民集14ー4ー483)もあるが,行政取締法規違反の行為が,その違法行為によって,現実的に個人の権利を侵害する結果を招けば当然のことながら,不法行為の違法性の根拠となるのは当然である。
 不法行為法上の違法性の有無も行政取締法規が,類型的一般的に,事業者(例えば食品を扱う事業者,消費者金融を営む事業者,個人から労務提供を受けて事業を営む者など)らに対し,一定の行為を禁じる規範を示して,その行為によって個人(例えば当該事業者と関わる消費者,労働者など)が被害を受けることを防止することを目的とするのであるから,その違反行為は個人の権利を侵害する違法性を備えていると解するのが当然である(吉村良一「不法行為法」有斐閣60頁)。
 従前の最高裁判所判例も,取締法規違反行為の私法上の効果については,これを一律的に判断するものではない。ましてや,不法行為法上の違法性を有する行為といえるか否かの判断にあたっても,労働者派遣法の取締目的達成の見地から,その違反行為を放置することによって立法によって保護される労働者の権利が侵害されている場合,当然に不法行為責任が肯定される。
 しかし,原判決は,労働者派遣法の目的について全く理解せず,さらに立法時の政府答弁ですら認めていた法解釈を無視して,誤った法解釈に基づいて不法行為法上の違法性を否定したのであって,これは正されなければならない。
 そこで,原判決の示した労働者派遣法の解釈の誤りを指摘するとともに労働者派遣法違反行為が権利侵害行為であることを以下に述べる。

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